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第1022回 陸のシルクロードとウクライナ問題-その1-

(2022年6月9日)

 ロシアとウクライナの戦争に絡んで、様々な国際情勢の変化が起こり、その中で中国の立ち位置が論議を呼んでいます。この問題を考えるとき、まず、基本となるいくつかの観点がありますが、その第一は、周知の「一帯一路」政策です。       
 中国が「一帯一路」政策を打ち出した背景には主に以下の理由があります。第一に、国際政治面からの必要で、2008年のリーマンショック以降、中国はアメリカ経済に依存してきたそれまでの高度成長の危うさ、アメリカや日本に依存することによる政治的立場の弱さに気づき、「一帯一路」政策を推進することで、ユーラシア大陸を包含する中華経済圏を構築し、中国経済に対する日米の影響力を弱め、外交上のフリーハンドを手にしようとしました。第二は、リーマンショック後、アメリカという輸出先を失った製品や4兆元にのぼる緊急経済対策で生産設備に過大投資した国有企業の余剰生産能力の受け皿となる新たな市場確保の必要性でした。第三は、2012年に習近平政権が誕生したのち、中国経済は経済調整期(“新常态”「ニューノーマル」)に入りましたが、その中で国民がデフレマインドに陥るのを避けるためにも、新たな目玉が必要でした。こうして「一帯一路」政策が鳴り物入りで始まったわけですが、様々な紆余曲折を経つつ、急速にその内実を充実させ、世界経済に大きな影響力を持つようになりました。一部の発展途上国を債務漬けにして半植民地化するような動きには批判の声が高まっていますが、その一方で、ソ連崩壊後独立した、海への出口を持たない中央アジア諸国に与えるインパクトは大きく、カザフスタンやウズベキスタン、キルギスなどにとってはすでに欠かせない大動脈になっています。
 一方、この陸のシルクロードによって結ばれたヨーロッパ諸国、とりわけ、中欧東欧諸国や、対中国の玄関口となったポーランドやドイツは、近年、中国との経済的、政治的結びつきを強め、また、ロシアもシベリア鉄道の輸送力強化によって中国との経済的結びつきを格段に強化してきました。こうして5年程前には人民日報に欧州諸国との活発な交流とその成果を喧伝する記事があふれていましたが、その後の香港・台湾問題や、中国の南シナ海・南太平洋への進出、さらにアメリカや英独などの政権交代で中欧関係は転機を迎えました。そこに降ってわいたのがウクライナ問題。中国はこれにどう対処するのか、それは次回に。

次回は6月16日更新予定 テーマは<陸のシルクロードとウクライナ問題-その2->です。

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