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第1073回 治安体制の強化-その1-

(2023年6月8日)

 今年(2023年)4月26日、改正<反スパイ法>が全人代常務委員会で承認され、7月1日から施行されることとなり、日本のメディアでも大きく取り上げられました。現行の<反スパイ法>は2014年11月1日に施行されたもので、6年半ぶりの改正となります。その背景に、中国を取り巻く軍事面・経済面・国際情勢が厳しさを増したこと、ITの急速な進化など、科学技術の急速な発展に伴う情報管理の重要性の高まりがあることは論をまたないでしょう。
 第4条第3項では、スパイ行為の内容として「スパイ組織及びその代理人以外の他の国外機構・組織・個人によるか、あるいは他者に指示したり資金提供をして行ったか、あるいは国内の機構・組織・個人と結託して行った、窃取、偵察、買収、国家の機密や情報及びその他の国家の安全保障と利益に関る文書・データ・資料・物品の違法な提供、あるいはまた、策動、誘惑、脅迫、国家公務員の買収といった活動」と規定しています。
 日本では、ほぼ時を同じくして、2016年に北京で拘束されたアステラス製薬の鈴木英司氏の著書『中国拘束2279日』が発売され、反響を呼びました。日中青年交流協会の元理事として日中友好に多大な貢献した氏の拘留は多くの同情を呼び、中国側の「理不尽な」行為に非難が集中、「多くの親中派の人々も訪中をためらっている」との情報も伝わっています。
 中国明朝の秘密警察・軍事組織であった、泣く子も黙る錦衣衛(きんいえい)の復活を連想させる近年の厳しい治安維持体制整備への批判は別として、鈴木英司氏の問題は、冷静な分析が必要でしょう。いずこの国も、様々な手管を用いて情報収集をしているのは周知の事実で、中国もアメリカもロシアもEU諸国も同様。ただ、日本の場合、あらゆる手段と言っても限られており、政府機関独自では情報収集が到底追い付かず、関東軍特務機関と緊密に連携した戦前戦中の満鉄調査部にはほど遠いにせよ、メディアや商社、その他、中国駐在ビジネスマンを使ったり、時には一般旅行者になって情報収集することもある。まして、鈴木氏の場合、明らかに公安調査庁との接触が濃厚であったことを伺わせ、政府の情報収集活動とまったく無縁の人とは言い難い。過去のケース同様、日本政府が強力な抗議を続けず、マスコミも歩調を合わせたように尻切れトンボになった事は、脛に傷持つ身であることを伺わせる。しかし、これはどこの国もやっていることではある。問題は摘発の手厳しさだろう。

次回は6月15日更新予定 テーマは<治安体制の強化-その2->です。

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