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第1083回 心の健康

(2023年8月24日)

 2010年代中頃、中国の経済発展は目覚ましいものでしたが、その過程で、人々の精神衛生上の問題も顕在化しました。これに対し、政府も本格的な取り組みをはじめ、2013年には全7章85条の<精神衛生法>が施行され、この領域における空白を埋める作業が始まりましたが、当時は主として重度の精神障碍者に重点を置いたものでした。
 しかし、2015年になると、中国の15歳以上の人々の中で、鬱病・自閉症などの精神障害患者は1億人を超え、その内、重度の障害患者は1600万人も達することが判明、しかも精神障碍者は年間20%ずつ増加していることが判明、国民の「心の健康」が重大な問題としてクローズアップされました。
 3000万人以上の児童が問題を抱えている事実を突きつけられた政府は、2015年に<小中高等学校カウンセラー室設置の手引き>を配布、資格を備えた専門カウンセラーを配置して生徒や保護者に対し無料開放し、予防や即時対応システムの構築を規定しました。
 自閉症も含めた青少年の精神的障害の原因は様々ですが、学習面での重圧のほかに、家庭内での人間関係の変化も指摘されています。両親が共働きの上、一人っ子が多く、核家族化による祖父母世代との隔絶がもたらす孤独が与える心理的プレッシャーを癒すため、ゲームなどバーチャルな世界に耽溺し、結果として自閉症に陥るケースが急増したのです。
 一方で、子供に巣立たれた“空き巣老人”や子供のいない独居老人は、デジタルデバイドも加わり、疎外感から精神障害に一層係りやすくなります。
 政府は2017年、正式に「国民心理健康ネット」を立ち上げて相談に応じる姿勢を示しつつ、<全国衛生工作計画(2015-2020年)>で2020年までに精神科医を4万名まで増やし、70%の郷鎮に精神衛生総合管理チームを設置する目標を掲げました。また、教育部は2021年に、「五つの管理」(宿題・睡眠・スマホ・読書・健康管理)を打ち出し、具体的な調査と取り組みを始めました。
 こうした中央政府の方針の下、2021年以降、各地方や県レベルでも独自の取り組みが始まっていますが、その中で、老人と青少年や子供たちの触れ合いが両者にとって非常に有意義で、「人間は社会的動物であり、家族や地域社会のつながりが人々を孤独から救い、精神作用に極めて有益」であることが見直されつつあることは、まさに目からうろこでしょう。

次回は8月31日更新予定 テーマは<>です。

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