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第1159回 香港の没落―その3―

(2025年2月27日)

 香港経済に目を転じると、まず、イギリス系企業の立ち位置がぐらつき始めています。とりわけ、米中対立が激化する中、中国政府への忠誠度を問われ、板挟みに苦しむケースが増えてきました。例えば、キャセイパシフィックは、エア・チャイナが29.9%の株を保有しており、今後、本土出身者の雇用や国産旅客機の購入を迫られる公算が強く、既に客室乗務員やパイロットには本土出身者の雇用が推進されており、いつ買収されるかという観測さえあります。また、中国本土に対する海外からの投資の窓口である香港では、米中の対立や中国経済の低迷から、海外の資金が香港から撤退して投資先を日本などに振り向けてしまい、その分を本土からの資金が埋められず、ハンセン指数は2024年以降、当局の下支えを受けながらも長続きせず低迷、2025年2月頃から漸く回復し始めたところです。


 統制強化の文化に対する影響も大きく、独自の地位を確立していた香港映画界を例に挙げると、2021年に映画検閲条例が施行されて以降、香港では上映できない映画が増え、これまで香港映画の繁栄を担っていた監督やその他の映画関係者の香港離脱も増加しています。70年代後半以降のニューウエーブを担った若手の監督たちは、高い娯楽性が売り物だった香港映画に芸術性の高い社会派の作品を注ぎ込み、多様な出自を持つ人の集まる国際都市香港という文化の坩堝を描くとともに、その政治的意識をも覚醒させ、香港人としてのアイデンティティを模索し始めました。それこそが本土政府による圧殺の対対象となったのです。


 今後、中国政府は香港の幅広い国際性や発達したサービス業という利点を何とかして本土の持つ広大な市場、先端科学技術などと結びつけ、香港の国際的金融センター・物流センター・貿易センターとしての役割を向上させ、香港を本土と世界の双方向に開放する橋頭保に再構築し、とりわけ、内外の金融市場の相互連携に大きく貢献することを目論んでいます。加えて「一帯一路」の発展という側面から見れば、香港にはなお新たな発展スペースが与えられる可能性があります。2025年は「一帯一路」が提唱されて十周年になります。香港では2016年以来8年連続して「一帯一路」ハイレベルフォーラムが開催され、2024年の第9回フォーラムでは100余りの国々が参加し、協力覚書は過去最高の25件に達しました。


 独特の光芒を失い、本土政府の金融・商取引の手駒となりつつある今、香港が周辺諸都市に同化し、大湾地区の一地方都市になることは避けられない運命かもしれません。

三瀦先生のコラム