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第1160回 中国鉄鋼業界の現状
(2025年3月6日)
中国鉄鋼業界が抱える問題が長らく指摘されています。既に2023年末には国内生産量が国内消費量を1億トンも上回りました。この傾向を助長したのが不動産業の不振がもたらす内需不振。高炉の火を止めたくない生産側は低価格で輸出攻勢をかけるしかなく、その結果、翌2024年上半期には輸出量が24%も増加、一方売上高は9%ダウンし、年末になると鋼材価格は4割下落、その影響で東アジアでも取引価格が年初に比べ14%下落してしまいました。2024年の鋼材輸出量は1億1070万トン(前年比22.7%増)、過去最高は2015年の1億1240万トンでしたが、輸入量を差し引いた純輸出量で見れば1億390万トンとなり、初めて1億トン突破を記録したのです。中国のこうした輸出増は世界的な鉄の余剰を生み、アメリカ最大の鉄鋼メーカー、ニューコアは23%、USスチールも19%の減益、韓国のボスコも17%と大手が軒並み減収に追い込まれました。一方、日本勢は5年前ごろから思い切った構造改革を進めた成果が表れ、事業利益が日本製鉄は15%増、JFEはなんと11倍に増加、対照的な結果を示しています。
振り返れば、2010年代後半に中国は生産能力過剰問題がますます顕在化、2016年10月の宝山鋼鉄による武漢鋼鉄の吸収合併は、全国製鉄業の生産能力再編の皮切りとなりました。2022年、政府は<鉄鋼業の質の高い発展を促す指導意見>を打ち出し、2025年までに合理的な業界構造の確立、資源の供給安定化、AIによる技術の高度化、ブランド力の向上というを方針を示しました。しかし、不動産不況などの影響、加えて80%以上を輸入に頼る鉄鉱石の価格上昇も受け、鉄鋼業全体の利益が蝕まれてしまいました。そのため、安価で質の悪い鉄鉱石の輸入を増やしたり、「廃材を多く使うことは鉄鉱石の消費を少なくし、二酸化炭素排出量も減らすので一挙両得だ」と国内外のくず鉄の輸入が増加する傾向も垣間見られます。資源の有効再利用は良いことですが、それほど逼迫しているとも言えます。
2022年、政府は<第14次5ヵ年計画現代流通体系建設プラン>を発表、大型スーパーなどのチェーン店に、ネット、クラウド、人工知能などを利用し、オンラインとオフラインの競争と協力を推進する総合的な発展へとモデルチェンジするよう呼びかけるととに、デパート、ショッピングセンター、大型家具店などは、社交の場、家庭消費の場、流行消費の場、文化消費の場へとモデルチェンジするよう提唱しました。
いずれにせよ、2023年の統計で、中国では太陽光パネルの供給能力が世界総需要の1.9倍、リチウムイオン電池は1.5倍、EV生産能力は1.2倍に達しました。政府の補助を受け、圧倒的な生産量と低価格攻勢で他国の競争相手をつぶし、市場を占有していくやり方は、ひとたび技術や質の面での優位性を失った時には双刃の剣となって、自らの身に降りかかってくることにもなりかねません。