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 第645回 南水北調、最後の関門

(2014年11月17日)

長江の水を黄河へ—華北地方の水不足解消の切り札として始まった大工事<南水北調>。1992年の14全大会で21世紀に跨る重要プロジェクトに組み入れられ、2000年には西、中、東3線の建設が確定、2002年に国務院で正式に承認されて、同年12月に着工されました。10年後の2012年9月、中線丹江口ダム移民事業が完了、2013年12月に東線1期工事が全線通水し、中線も主体工事をほぼ完了、2014年11月の全線通水が示唆されました。
東線1期工事は江蘇省・安徽省・山東省の3省を、南は長江下流江蘇省江都から北は山東省徳州まで、また支線は同省威海に至り、直接給水対象は6000万人、年間約88億立方メートルを供給します。全長1467キロで、大部分は現有の京杭大運河の河道を使います。
中線は、湖北省と河南省に跨る丹江口ダムから北上、河南省鄭州−焦作間で黄河を潜り、河北省の邯鄲・石家庄を経て北京へ向かい、天津にも水を供給します。全長1432キロ、19の大中都市を包含する河北平原に95億立方メートルを供給、都市に供給された水の65%は再処理されて農業用灌漑に再利用され、水不足に悩む河北省の農業を潤す計画です。これによって同地域の地下水系の深刻な過剰取水にも歯止めがかかることでしょう。
一見、順調に進んでいるこのプロジェクトですが、問題は水質基準。丹江口ダムの水は飲用可能ですが、送水途上での汚染が心配。2013年第3四半期に環境保護部が行った中線河南、湖北、陝西3省の調査では、汚染防止対策474項目中完成済みはわずか51項目と1割強。56ヶ所の水質調査で10ヶ所が基準オーバー。東線でも江蘇、山東2省575項目中完成済みは300項目と半分強。そこで政府は2014年2月、<南水北調工程供用水管理条例>を施行、水質確保の体制づくりに入りました。例えば北京市では、実験室での観測、自動観測、応急移動観測を組み合わせ、34ヶ所の地表水を観測する109項目の基準を設けています。更に、“入京”(北京市の関門)“入城”(市街地区の関門)“入廠”(浄水場の関門)の三段階の防御線を張り、また、北方施設や住民への対南水適応度についても対策を練っています。
このほか、水の価格問題も関心を呼び始めていますし、そもそも南水北調が十分な水を確保できるのか、長江流域の生態に影響はないのか、に関してもなお疑問が呈されており、政府は専門家を動員して不安の打消しに躍起になっています。

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