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第975回 新科学技術革命と中国
(2021年6月24日)
本コラム、967号で第六次科学技術革命としての新生物革命に言及し、中国科学院の何伝啓氏の「『生態模倣』・『創生』・『再生』という三つの『生』を包含する『再生革命』」に言及したところ、内容へのさらなる質問が相次いだ。そこでその概略を記しておく(詳しくは、『中国の現代化理論とその戦略』(何伝啓主編、三好ひろ子翻訳、三潴正道監訳。2021.2科学出版社東京P67~参照)。以下はその要点である。何伝啓氏は2009年NRC(全米研究評議会)が「21世紀の新生物学」という研究報告で、同革命の時期は2020-2050年前後で、「生物学内部における学問領域-物質科学・コンピュータ科学・技術科学・数学など-の統合」であり、これにより、食糧・エネルギー・環境・健康といった問題を解決する、と指摘したことを踏まえ、五つの中心領域を挙げている。
[一]統合生物学と創生生物学:生物体内の分子全体の協力関係を解き明かし、分子-細胞―器官―生物体と、
その結合・統合関係を明らかにし、新しい生命の創造までを視野に置く。
[二]思考と神経生物学:脳の様々なメカニズムを解明し、情報技術の革命的発展を推進。
[三]生命と再生工学:生命操作能力の開発。対象:遺伝物質(新種創造)、神経系統(行動特徴の転換)、
生物リズム(人工の休眠・覚醒)、組織や器官(対外培養による交換)、生殖(対外生殖)、性状
(必要な生物工場構築)、生命形態(生物と機器の組み合わせ⇒再生工学)
[四] 情報工学と生体工学:コンピュータが人の脳の認知・思考原理をシュミレーションし、非線形性推理
機能(直覚)を構築、一部の「感情」を持つ。脳とコンピュータ間の直接的情報交換が脳の直接的充電
を可能にし、学習革命・教育革命を起こす。「人格情報バッグ」により、人のサイバー化、サイバー人間
が可能になり、永生化が実現する。
[五]ナノ工学と生体工学: ナノによる生態模倣材料、生態模倣器官、生態模倣設計、生態模倣製造など。
「サイバー人間」が実存人間の鏡であるのに対し、「生態模倣人間」は実存人間の物理的代役で、
宇宙開発に適応。
こうして、人は「実存人間」「サイバー人間」「生態模倣人間」「再生人間」という四つの命を持つ、と何伝啓氏は結ぶ。しかし、氏も指摘する如く、これらが重大な倫理的問題を引き起こすことは明らかである。しかし、かなりの部分は既に実行に移されているのである。