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第百十六回 食糧の再確保へ向けて
温家宝首相が2003年秋の国務院常務会議で、耕地の保護、余剰食糧の積極的買い上 げ、穀物生産奨励補助金の農民への直接支給と農業税の引き下げ、農業構造調整における食糧生産の確保等の方針を打ち出しました。なぜ、今、食糧増産に躍起になったのでしょうか。
中国の食糧生産は80年代初期、毎年3億トンほどでしたが、人口増による将来の食糧不安から、90年代前半、国を挙げて増産に励み、96年には5億トンを超え、98年にピ−クを迎えました。しかし、急激な耕地の増大は森林や草原の減少を加速させ、環境破壊が進み、旱魃、砂嵐、洪水などが頻繁に発生する一因となりました。
食糧が大量に余り、備蓄費用が新しい問題になる中、政府は一転して"退耕還林還草 " 政策を推進して森林、草原の再生に努め、また、農民の増収を図るため、穀物生産 の多角的農業経営への転換を奨励しました。その結果、1999年以来穀物生産は減り続 け、2000年からは年生産量が年消費量を250億〜350億kg下回るようになり、古米市 場は買い手市場から売り手市場に変化、備蓄食糧の確保さえ危うくなってきました。その一方で、各種建設用地の確保のため耕地の取りつぶしが急速に進んで、2003年の 夏季収穫穀物作付け面積は前年比6.5%減、収量にして40億kg(4%)減という数字 を記録しました。
温家宝首相の食糧増産に関する方針は、こういった背景の下で打ち出されたのです。土地の濫用を取り締まり、耕地の確保を進める一方、"南糧北運"から"北糧南運"への変化が示す如く、新しい穀物生産主要地域にのし上がった東北地域の生産能力の 保護育成に力を入れ始めました。また、農民の穀物生産の意欲を高めるため、"両放一改"という改革も進められています。これは2003年に安徽省で始まった改革で、"両放"とは、食糧の買い付け価格の自由化と食糧市場への自由参入を、"一改"は従来の穀物 生産奨励補助金(余剰食糧買い上げ奨励資金)が流通ル−トで搾取され農民の手に届 かなかった反省から、直接支給に切り替えたことを指します。
2003年8月、国務院は<中央備蓄食糧管理条例>を施行、関係諸機関の役割の明確化、行政と企業の分離、食糧備蓄制度の法に則った運用を打ち出しましたが、13億の人口 の食糧確保という大問題は、今後も中国政府の肩に重くのしかかっていくことでしょう。