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第1168回 中国自動車業界の急速な発展―その5-
(2025年5月1日)
EU以外でも中国車の進出は鮮明になっています。特に目を引くのがこれまで日本車が7割を超えるシェアを誇ってきたASEANです。主力市場はタイで、2023年には中国メーカーの新車販売市場シェアが前年の5%から2.2倍の11%に急増、政府が2022年にEVの生産促進として、最高15万バーツの購入補助金制度を導入したことが追い風になり、EV販売台数は7万6314台(前年比7.8倍、BYDが約4割でトップ)を記録しました。すでに2020年にタイでGMの工場を買収、HIVやEVの生産を開始していた民営大手の長城汽車は、2024年1月にタイ東部でEV生産を開始しましたが、市場に火が付いたと見たタイ政府は、2024年から補助金を10万バーツに減額、同年2月にはEV販売が急激に落ち込みました。これがきっかけとなり、中国各社は一斉に低価格化へ舵を切り、重慶長安汽車は超小型の低価格EVで攻勢をかけ、BYDも2024年3月のバンコク国際モーターショーから低価格攻勢を強め、その他各社も市場拡大を目指してSUVからスポーツカーまで多様化戦略を急速に進めました。同時に現地に工場を建設する動き(2024年7月:BYD、広州汽車工場稼働、8月:上汽通用五菱工場稼働)も活発化しました。中国本土での生産過剰分を持ち込もうというニーズとの整合は必要ですが、これらの工場は、今後周辺諸国への輸出拠点になる可能性をも秘めており、部品調達では、地場の部品メーカーとの連携が急速に進んでいます。BYDは販売店網の充実に力を入れ、2024年末にはほぼ200店舗に達し、日本企業の販売店からの鞍替えも増えていますし、さらに、これまで日系企業が九割のシェアを誇っていた牙城、ピックアップトラック市場でも、吉利が11月にタイ市場初のEV車RD6を発表、電池技術の革新で航続距離385㎞、価格約400万円を達成、他社に衝撃を与えるなど、日系企業はおしりに火が付いた感があります。
同年12月、中国自動車メーカーの進出を支援するCATARC(中国自動車技術研究センター)は、これまでに拠点を設けた日本、スイス、ドイツに続き、バンコクに新たな拠点を開設した、と発表しました。今後、タイや周辺諸国の関連法規や基準に関する情報を中国系企業に提供することが期待されています。タイでのEV市場の動きは既にマレーシア、インドネシア、ミャンマー、シンガポールなどASEAN各国に波及しつつあり、官民一体となった中国勢の大攻勢に対する日本政府や日本企業の戦略再構築が急務になっています。