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第195回 国学の復活
2005年5月29日、人民大学紀宝成学長は、9月から国内初の国学院(学部・修士6年一貫制)を開設する、と発表しました。同大学孔子研究院では<儒家文化国民推薦読本叢書>(全20冊)の編纂も行われています。経済の急速な発展の一方、モラルの欠如に起因する様々な問題が噴出している中国では、90年代から社会道徳の構築が叫ばれ始め、2001年には、儒家の倫理道徳の核心である“仁愛”・“誠信”・“孝悌”を根幹にし、社会公徳・職業道徳・家庭美徳を称揚する<公民道徳建設実施綱要>が煥発されました。その後、2003年1月に出版された<中華伝統美徳格言>はベストセラーにもなりました。
儒学の復活を印象づけるニュースはひきもきらず、曲阜師範大学は<論語>を中華民族の根本精神として位置づけて講読授業を設け、北京語言大学は2004年に<孔子と世界文化>学術研究会を主催、学内には孔子の銅像が安置されました。小中学校でも積極的に授業への導入が図られています。四書五経を授業に導入し、毎日30分間素読を行っているハルビンの小学校、2年前から“国学”の授業を行っている済南市の小学校、こういった動きは急速に広がり、既に全国で1千万人近い生徒が四書五経の勉強に取り組んでいます。
人民日報に“国学”と言う言葉が頻繁に登場するようになったのは2005年から。最初は“”付きでしたが4月以降にはそれもとれてきました。5月26日には新儒学と毛沢東思想の関係を論ずる記事が掲載され、“儒家資本主義” “儒家社会主義” といった概念が紹介されましたし、翌27日には<誰が国学を遺棄したのか?>と言う記事と、上述の紀宝成氏による国学研究の歴史の回顧と国学の復興を呼びかける文章が掲載され、また、儒学だけでなく、老子の思想に含まれる科学的要素に注目する論も紹介されました。一方、こういった風潮に対し、陳四益氏は封建的な“孝”の復活の危険性を例に上げて儒家思想のやみくもな導入に警鐘を鳴らしました(人民日報2005.2.18)。
2005年3月、5年の歳月を費やして制作された映画<文化巨人—孔子>が完成、また、4月には、2000万元を投入する北京の孔子廟・国子監古建築群修復工事の着工が報じられましたが、もっともよく引用されている言葉“己所不欲,勿施於人”「己の欲せざるところを人に施す勿れ」、の精神が如何に社会に浸透するか、その地道な成果に期待しましょう。