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第217回 農業税の廃止
(2006年2月13日執筆)
2005年12月29日、『<中華人民共和国農業税条例>廃止に関する全人代常務委員会の決定』が第10期全人代常務委員会第19回会議で採択され、農業税は2006年1月1日から廃止されることになりました。既に2004年、タバコを除いた農業特産税の徴収が免除され、同時に吉林・黒竜江両省が農業税免除テスト地域となり、2005年には牧業税が全面的に廃止され、また、20の省市が農業税廃止を自主決定して総計28地域に拡大、そして今回、農業税全廃の方針が明確に打ち出されたわけです。
農業税の国の税収に占める比率は2004年時点でわずか1%、2005年の徴収額も減免が進んで15億元前後に過ぎず、廃止による減収の影響は少ない、と政府は説明。更に、農業税廃止後減少する地方財政収入については、沿海先進地域は原則的に自己負担、主要食糧生産地域や中西部地区では中央財政から補助金を支給することを示唆し、2005年は、2004年の216.6億元に140億元上増しする事を明らかにしました。
その一方で、農業税の廃止に伴う諸問題について様々な指摘がなされています。これまで“三提五統”(農民から村レベルで徴収していた三種の内部留保金と郷レベルで徴収していた5種の計画準備金。勝手な名目をつけて金を巻き上げ農民を苦しめる一方、幹部が私腹を肥やす温床になっていた)で収入を得ていた村の幹部が別途収入を図り始めました。一人っ子政策違反者への罰金の強化、最近流行の“一事一議”への便乗、外資系企業誘致時のお目こぼしを逆手にとって「中央の方針に違反している」と高額の罰金を強要、といった現象が報告され、結婚・新築・自動車所有なども格好の餌食に。こうした風潮を阻止する為には、彼らの所得が以前を下回ることのないよう政府が保証する必要があります。
農業税の廃止は、農業生産力の向上と農業製品の国際競争力の強化につながる事が期待され、また、都市と農村の差を縮小し、調和のとれた社会の実現にとっても必要な措置です。その措置によって地方財政が圧迫され、その付けが農民に回って「医者に見てもらえる、薬が買える、子供が学校へ行ける」といったささやかな農民達の願いが犠牲にされては、本末転倒になってしまいます。そうならないよう、しっかりした財政支援と厳しい行政の監視が求められます。