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 第397回はびこる学術上の不正

(2009年10月26日)

2009年2月6日、中国学術界の屋台骨を揺るがす重大な事件が明るみに出ました。同日付の人民日報は、中国科学院会員の李連達浙江大学薬学部長率いる研究チームが発表したうち14篇ほどの論文は、メンバーの賀海波が剽窃により作成したもので、一つの原稿を複数回投稿してもいた、と報道しました(その後、剽窃確認は8篇)。また、この事実を指摘したのはフィンランド在住の全欧中医薬協会連合会の祝国光副主席であること、浙江大学は調査の結果、「これは賀海波個人が行ったもので、李連達教授は関係していない」と直ちに声明を発表した事などが紹介されました。賀海波はこれにより同大学副教授の身分を剥奪されましたが、このことがきっかけで、著名な学者の名義貸しにも似た行為、またそれによって大学側が箔をつける風潮が蔓延している事実が明るみに出ました。実際、李連達教授は、浙江大学薬学部長とは名ばかりで、同大学での活動は最低限に限られていたからです。
問題はこれだけでは収まりませんでした。2月10日付の記事は、この事件の裏に、有名医薬品メーカー、天津の天士力と広州の白雲山の角逐があることを報道しました。李連達教授が、「祝国光は天士力の学術顧問であり、私の研究成果が天士力の商業利益を脅かしたため、報復されたのだ」と述べたのです。直後、今度は李連達教授が白雲山製薬の学術顧問であることが暴露されました。かくてこの問題は泥仕合の様相さえ呈し始めました。こういった情況の中、教育部は事態を重視、学術腐敗をスポーツ界のドーピングになぞらえ、厳しく対処すべく、3月19日に『高等教育機関の学術不正行為を厳しく処理することに関する通知』をだし、学術不正行為に該当する項目を具体的に示して綱紀の粛正を呼びかけました。
上記の事件はまさに氷山の一角で、類似の事件は次々とメディアで紹介されています。8月11日付記事が紹介したデータでは、半数近い科学者が学術上の不正が一般化していることを認め、彼らの43.4%が剽窃の、45.2%が虚偽の、42.0%が多重投稿の事実が深刻な状況にあると認め、更に51.2%が周囲の学術不正の存在を認めています。そして驚くべきは、多くがこういった行為に同情し、20%の科学者が許してやるべきだと考えているのです。
この記事では“打假”が“假打”になることも危惧していますが、学術上の名誉が実益に深く関わっている現状で腐敗をいかに根絶するか、学術界の自浄能力が試されそうです。

三瀦先生のコラム