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第505回高速鉄道事故から半年、その後の動向−その2
(2012年2月6日)
2011年7月23日午後8時半、浙江省杭州から温州に向かう高速鉄道が脱線、2両が橋から転落、40人が死亡しました。事故直後に先頭車両を穴に埋めたことについては、「事故後の証拠隠滅は以前からあった」という内部告発もあって大問題になり、また、事故の21時間後、捜索打ち切り後に2歳の女児の生存が確認されたことも記憶に新しいと思います。
事件後、まずインターネットに批判が殺到、更に注目されたのがメディアの対応でした。政府は先手を打って翌24日に独自報道自粛の通達を出しましたが、環球時報など政府系メディアも含め、事故の原因究明と責任追及を求める論調が相次ぎました。政府は4日間伏せていた人為的ミスや運行ソフトの重大な欠陥を認め、いったん埋めた車両を掘り出して事故原因究明の姿勢を見せましたが、29日には党宣伝部が本格的な言論統制に乗り出し、鉄道省を批判したCCTVの番組制作者も停職処分を受けました。一方、温家宝首相は現地へ赴いて事態収拾に乗り出し、8月10日には、公正を期するため再編成された行政と専門家による拡充事故調査グループのメンバーが漸く確定、公表されました。
今回の事件を契機に、鉄道省の抱える問題も大きく取り上げられました。2005年以降、高速鉄道建設と相俟って投資額が急増、負債額は2011年6月には25兆円に達しています。しかし、膨大な関連企業群を抱えた独立王国の利権構造にはこれまで指導部といえども口を差し挟めなかったのです。事故直後の25日、上海と深圳の証券取引所では関連株が大幅に下落、メディアもファミリー企業リストを公開しました。今後、どこまで切り込めるか、2012年秋の党大会に向けた権力抗争も絡み、その行方が注目されます。
鉄道整備計画も大幅な見直しを迫られました。国内外を含めた中国の鉄道事業は安全面の根本的な再点検を迫られ、工事の停止や遅延、計画の縮小が不可避になりました。今後10兆円は必要とされていた高速鉄道整備の費用調達にも暗雲がかかり、事故後に発行された鉄道省の短期資金調達のCPは利率が5.55%になっています。2011年8月12日、政府は<高速鉄道安全大検査に関する国務院弁公庁通知>を発し、また、高速鉄道の50キロ減速も明らかにしましたが、高速鉄道の整備自体は中国の新しい地域発展戦略にも、国内消費を喚起する「都市化」戦略にも欠かせず、景気の動向とも絡んで徐々に再開されるものと思われます。