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第523回福島原発事故と中国の原子力産業-その2−
(2012年06月18日)
福島の事故の1年前に、国家環境保護部国家核安全管理局の周子栄研究員は「5つの厳しい試練」として、①長年使用されてきた各施設の安全設計基準が低く、設備が老化している。②原子力発電の急速な発展が必要とする人材が不足している。③放射性廃棄物管理政策が不明で、資金投入も不十分。④放射能発生源が広範に分布している。⑤放射能事故に対する緊急対策用インフラ整備が薄弱で能力不足。という「5つの厳しい試練」によるリスクを指摘しています。では、福島の事故を受けて中国政府はどんな対応をしたのでしょうか。
事故5日後の3月16日、国務院は緊急常務会議を開催、直ちに全国の原子力施設に対して全面的な安全検査を行う事、建設中の全ての原子力発電施設工事を一時中断することなどを決定しました。これを受けて中国核工業グループは既存施設と進行中のプロジェクトに対する全面的な安全検査を開始しました。福島の事故は地震が原因だったため、原子力発電所の立地条件にも厳しい目が向けられ、広東省深圳の大亜湾原子力発電所については、基本設計がマグネチュード8に耐えられるよう設計されており、付近に6以上の地震を発生させる活断層も無く、津波も過去に広東省沿岸では0.5メートル以上は経験していないなどと安全性が強調されましたが、山東半島以北の原子力発電所は活断層が絡むものもあり、内陸部に検討されている案件に至っては更なる危険も指摘されています。
とはいえ、政府の原発の推進基本方針が転換したわけではなく、4月に入ると、原発の必要性と中国の原発の安全性を強調する記事が目に付くようになりました。4月11日付の<安全な原子力発電は文明の進歩による成果>と題する記事は「わが国で目下稼動している原発は加圧水炉型で、技術水準は第2世代改良型、福島より安全性は高い」と強調しています。
5月に入ると既設原発の安全確認が終了、建設中のプロジェクトに対するチェックも8月に終わり、8月7日には広東省嶺澳原発二期2号炉が商業運転に入りました。また、新規計画も2012年にスタートする見通しが示され、2011年12月、国家エネルギー局は2012年以降の積極的推進を表明、2020年までに約60基が新設される計画です。ただ、それには約1万7000人の技術者が必要と言われ、人材の育成が急務で、政府は米仏などの協力を得て、大学での専門教育充実に力を入れています。