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第529回少数民族文化の保存と継承
(2012年08月13日)
世界遺産級の文化財の保護から、様々な有形無形の文化財の保護へと急速に意識が高まっている中国。経済発展に伴なう開発による破壊や農村を中心とした後継者不足による伝承の断絶が危機感を煽る一方、物質的豊かさの面で小康レベルの生活を実現した人々の精神的、文化的欲求、更には中華文化の発揚という党政府による国策も追い風になっています。
人民日報2011.4.26付の長編小説『農暦』に関する「失われた農暦精神を取り戻そう」(郭文斌)という文はそういった中国人の伝統文化に対する精神的回帰を如実に示したもので、80歳を超えた河南省範天平著『中州百県水碑文献』を紹介した2011.10.21付の記事は、険しい山野を跋渉して水碑研究の空白を埋めたその業績を克明に紹介しています。
こうした中、最近特に重点が置かれているのは非物質文化遺産の保存。本コラムでも第382号でその動きを紹介しましたが、その流れを受けて<非物質文化遺産法>の草案が審議され、2011年6月に施行されました。その中には、調査制度・代表的項目リスト制度・伝承伝播制度の3制度が規定されると共に、民族・宗教に関わる問題を適切に処理する事も書き込まれました。中国の非物質文化の中で重要な位置を占める多くの少数民族の文化を如何に保存伝承していくかは喫緊の課題になってます。四川地震で伝承者も含め壊滅的打撃を受け、保存維持が危惧された羌族文化遺産は、3年の修復が実を結び、2011年5月、294の緊急保護項目のうち237項目が完成を見ました。また、チベットでは既にチベット医学・チベット紙など76項目、格薩爾説唱芸人や“唐卡”(チベット仏教の布絵巻)絵師など53人の代表的伝承者が国家級非物質文化遺産リストに加えられています。
口伝や手先の技術によって保存されている文化遺産は継承者が死ねばそこで途切れてしまいます。2010.7.16には、あるオロチョン族の老人の死と幸いに彼女が書き残した2冊の本に残された民族の伝承を紹介した記事が、2011.11.30付では、苗族の呪術師などからその伝承を記録し、『苗族賈理』を著した王鳳剛のエピソードが掲載されました。その一方で、話者が極端に減少し、絶滅に瀕した満語や関連文献の救済を求める声も。
2011年、第3次国家級非物質文化遺産リスト191項目が発表されましたが、そこには趙氏孤児伝説・仿膳製作技術などのほかに、少数民族の技芸も多く含まれています。