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第542回“最美”と社会モラル
(2012年11月05日)
“最美”が一世を風靡しているといっても過言ではない今年の中国。併せて、懐かしい「雷鋒に学べ」が大々的に復活、人民日報には<与雷锋精神同行>という特設欄も設けられました。これは何を示しているのでしょうか。
事の発端は2011年秋に起こった女児ひき逃げ事件。日本でも放映され、倒れている被害者を尻目に18人が平然と横を通り過ぎる姿が人々を慄然とさせました。2012年3月には安徽省で暴行を受け倒れていた女子高生を、110番通報を受けた警官は死亡した浮浪者と断定、運搬車を手配、その運転手が女子高生を田んぼに捨て、0度前後の気温の中2日間放置、幸い奇跡的に一命を取り留めた事件も起きました。
2012年1月19日の人民日報<人民観点>は「われわれの心の成長を支えているのは誰か」と題する評論を掲げ、19人目で女児を助け挙げた陳賢妹や、交通事故死した兄に代わって借金を返済した兄弟、また、大学を卒業してハンセン氏病患者の介護に身を投じた若者や北京大学の修士を出て妻と故郷に戻り、自費で図書館を設立した若者らを例に挙げ、彼らが特別な人ではなく、善良な一般人であること、それこそが社会の道徳的基盤であり、そこに目をしっかり向けるべきことを力説しました。
以来、“最美妈妈(お母さん)” “最美教师” “最美司机(運転手)” “最美护士(看護婦)” “最美大学生” “最美孕妇(妊婦)”と多くの美談が紙上を賑わせました。最近では、5月に暴走車から生徒を救って自らが両足切断と言う悲劇に見舞われた女性教師張麗莉の安否に国中が固唾を呑みました。党・政府の要人が次々と見舞い、最高の医師団が組織され、数々の称号が授与され、7月には共産党への入党が認められました。
これらと平行したのが雷鋒精神作興運動で、2012年2月に中央宣伝部が行った第9回中国公民道徳フォーラムは「雷鋒に学ぶ」運動を呼びかけ、2月23日には人民日報が5面全面を使って特集を組み、全国総工会や全国婦女連合会も同運動展開の通知を発し、北京を始め、各地でも運動が始まりました。ただ、社会公徳・職業道徳・家庭美徳・個人品徳を称揚するこの運動が共産党の先進性・純潔性の保持と直接結び付けられ、上からの組織的な運動と言う色彩を益々色濃くしている点も指摘しないわけにはいきません。