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第545回南シナ海問題
(2012年11月26日)
このところ、中国が今年の5月から発行しているパスポートが論議を醸しています。中国が領有を主張する南シナ海全域が記載されているためで、領有権問題で特に鋭く中国と対立しているベトナムやフィリピンがこれに反発、また、インドも、インドが実効支配しているアルナチャルプラデシュ州が中国領になっていることに抗議しています。
南シナ海領有権問題は、尖閣同様、70年代に海底油田など豊富な資源の存在が確実視されるようになってから顕在化しました。1951年のサンフランシスコ平和条約で日本の支配下を離れ、現在は、中華人民共和国・中華民国(台湾)・ベトナム・マレーシア・ブルネイ・フィリピン・インドネシアがそれぞれ関連地域の領有権を、また、各海域の排他的経済水域も主張しています。その間、ベトナム戦争時の1974年に中国軍はベトナムが実効支配していた西沙諸島西部を占領、1992年には、フィリピンから米軍が撤退し、米比相互防衛条約による両国間の紐帯が薄れた機に乗じて95年にミスチーフ礁を占領しています。
南シナ海問題を平和的に解決しようと、2002年にASEANと中国は「南シナ海行動宣言」を採択、2010年7月には、ハノイでのASEANフォーラムで法的拘束力を持った「行動規範」への取り組みが確認されましたが、その後はかばかしい進展が見られていません。
中国は「南シナ海問題は2国間で決着すべき」と主張、アメリカの関与を排除すべく、経済援助などを条件にフィリピンを除く各国を積極的に懐柔する一方、支配の既成事実化を進め、将来の国際的論議に備えた実績作りを進めています。2012年6月には海洋予報範囲に南シナ海全域を含めると共に三沙市の設置を認可、西沙諸島の永興島(ウッディー島)に人民政府を設置、7月に入ると、3地域15選挙区に分けて第一期人民代表の選挙を実施して肖傑氏を初代市長に、また、中級人民法院院長や人民検察院検察庁も任命しました。更に海軍の西沙水警区とは別に軍の海南省軍区三沙警備区も設けました。
これに対し、ベトナムは6月に<ベトナム海洋法>を可決、フィリピンもパラワン島近海での石油・天然ガス開発の入札を行うなどの対抗措置を採っています。7月9日からプノンペンで開催されたASEAN外相会議は史上初めて共同声明も出せず、かろうじて20日に6項目の基本原則で合意したに止まりました。火種は今後も燻り続けるでしょう。