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第576回莫言ノーベル賞受賞、その後の論評
(2013年07月01日)
2012年10月11日、莫言のノーベル文学賞受賞が発表され、その作風は「民話・歴史・現代を紡ぎ合わせた幻想に満ちたリアリズム」と評価されました。翌日の人民日報で莫言は「私は中国人民の生活、中国独特の文化や風情を表現したと同時に、常にひとの立場に立って広い意味でのひとを描いた。そういった作品は地域・種族・エスニックグループを超える」と述べ、中国作家協会の祝辞はその作品を「郷土に深く根ざし、生活の中から芸術的インスピレーションを汲み取っている」と評しました。受賞の意義については「社会の現実に対する彼の持続的かつ敏感な観察が見て取れる」(王文章中国芸術研究院院長)、「現実と幻想、歴史と社会を融合させ、世界の文学的経験と中国の民間の経験を結合させた」(文学評論家雷達)といった感想が掲載されました。孫郁は「庶民のために書くのではなく、庶民として書いている」とし、魯迅との共通点として「複雑な時空にこそ立体的なひとと精神がある。いい加減な眼光では本質を見抜けない。魯迅のように直視してこそ、血腥い中に美しいきらめきを見つけられる」(10.16)と解説しています。
莫言自身は記者の質問に、「幼いころ講釈師が大好きで、あちこち聞きに行っては、帰宅して母に聞かせた」と語っており、講釈師たちの様々な語りが豊かで奇想天外な想像力を育んだことを窺わせます。また、同じ農村作家として著名な趙樹理との違いを自ら“怪诞的” “迷幻的”とも表現しています。(2012.10.19人民日報「莫言との対話」)。なお、<大江と莫言>(12.7)では、 莫言の受賞に大江健三郎が大きな役割を果たしたことも紹介されています。
一方、日本の新聞では、10.12付読売は「反骨の作家」として評価する一方で「中国作家協会副主席として当局が許容する範囲内で活動している」と指摘、同朝日は「余計なことをしゃべらないよう自分を戒めるため『言うこと莫れ』というペンネームを付けたのは、『作家は作品を通して語ればよい』と考えているからだ」(飯塚容中央大学教授)との識者の言葉を紹介しています。なお、10.16付の読売<阿Qの描く阿Qたち>(河村湊法政大学教授)と同朝日<寡黙な人の溢れる創造力>(吉田富夫佛教大名誉教授)の文章は莫言に関する優れた評論記事と言えましょう。莫言理解には、<莫言説><説莫言>から成る林建法主編<論文集『説莫言』>(遼寧人民出版、1985-2012の80篇余りを網羅)も役に立ちます。