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第672回 挙国体制の技術革新−その2−
(2015年06月08日)
今回の取り組みの大きな特徴の一つに、産学協同の推進と共に、基礎研究の重視が挙げられます。前号で紹介した2015年春の全人代における李克強首相の報告内容にもそれがはっきりと表れています。その1年前、2014年1月に行われた国家科学技術賞の表彰について、人民日報は、「今回の表彰大会の特筆すべき点は、基礎研究の面で大きな成果があったことだ」と論評し、「今回は自主的技術革新と重大な発明創造に力点を置いた」「特に若い科学技術者を励ますことに力を入れ、初めて40歳以下の若手研究者が主導して完成させた基礎研究が専門家の推薦を得られるよう道を開いた」という国家科学技術奨励工作弁公室責任者の弁を紹介しています。実際、この時、国家自然科学二等賞を受賞した北京大学の施章傑教授は若干39歳、研究チームの平均年齢は35才だったとのこと(人民日報2014.1.11)。
毎年の大学卒業生が700万人に達する中国ですが、その多くが理系で、既に現在、世界最大の理系卒業生輩出国になっています。一方でまだまだハイレベルの研究者が不足している中国。これら理系の若者をうまく育て、前途に希望を抱かせれば、新しい強力なエンジンになりうるでしょう。特許取得数が飛躍的に増加していても、その多くが継続研究か改良研究で、かの鳥インフルエンザワクチンのような全く新しい発見、創造に関する特許は乏しいのが現実。まさに技術革新に対するインセンティブメカニズムの健全化が急務というわけです。
こういった点は資金投入の面からも明らかです。中国の研究開発に関する社会全体の投入資金が1兆元を突破したのは2012年のこと(世界第3位)。基礎研究費も金額的には年々前年比20%以上増加してはいましたが、全体に占める割合はわずか4.8%に過ぎず、同様の数字を公表している国の中では最低レベルでした。その原因は、「成功するかもわからず、うまくいっても利益を出すまでに時間がかかる研究に回す金がもったいない」という「目先の利益」しか考えない商人根性。それゆえ、<国家中長期科学・技術発展プラン綱要(2006-2020)>では、2015年には中央政府の科学技術割り当て資金の20%を基礎研究に当てよう、という計画だったにもかかわらず、2013年でやっと15%で、40%近いアメリカや50%を超える韓国とは依然大きな差がありました。そこで当面の目標を、社会全体の投入資金に占める基礎研究費の割合を2020年に10%にすることとし、国を挙げての取り組みを始めています。