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第685回 生産安全対策—その1—
(2015年09月07日)
2015年8月12日(日本時間13日)深夜に天津市浜海新区天津港で発生した大規模爆発事故の記憶はまだ生々しい。政府の厳重な情報統制で詳細は不明な部分が多いのですが、シアン化ナトリウムをはじめとする多種大量の危険物が爆発に含まれ、これによる有毒ガス発生の情報が周辺住民を恐怖に陥れました。死亡者の数は政府発表と様々な情報とが桁違いに食い違い、また、被災して住居を失った多くの住民へのケアも十分とは言えないようです。 その後、地方政府の関係部署や事故発生企業の関係者が拘束されたニュースが伝わりましたが、原因究明の過程で最終的な責任の追及がどこまで及ぶのか、天津にかかわりが深い政治局常務委員が絡むとの推測や、それと関連した上層部の権力抗争絡みだとの憶測まで飛び交い、真相はまだまだ五里霧中と言えます。しかし、事は多くの無辜の一般大衆を巻き添えにしており、これをうやむやにして権力の安泰を図れば、逆に共産党の統治そのものに対する不信感を醸成するでしょう。
トヨタをはじめ、多くの日本企業もこの地区に進出しており、それら工場の早期生産再開と天津港の業務の正常化は、折悪しく経済の先行きに暗雲が立ち込めた中国にとって喫緊の課題であることに間違いありませんが、その後も山東省などで類似事故が起こったことを考えれば、一連の事故の原因徹底解明とそれに基づく安全対策の見直しは避けて通ってはいけない重要なプロセスになります。
今回の事故が深刻なのは、その規模や危険度、被害状況のスケールはもとよりですが、実はこの事故が昨今、習近平政権が特に力を入れていた安全生産推進の真っただ中で起きたことです。胡錦涛総書記が誕生した2002年、中国全土での事故数は年間で107万件、そのうち極めて重大な事故は128件と1カ月に10件以上も発生し、死亡者数は14万人で1カ月に1万人を優に超えていました。中でも多かったのが炭坑の事故で、生産量100万トン当たりの死亡者数は5.8人に達していました。
こういった深刻な数字は、2014年にはそれぞれ、事故総数29万件、極めて重大な事故42件、死亡者数6.6万人、100万トン当たりの死亡者数0.25人と大幅に改善されはしたものの、例えば、小規模な炭坑・鉄鋼・化学・セメント・製油等各種工場はいまだ、野放し状態でした。