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第721回 焦眉の急!日中翻訳人材−その3−
(2016年5月30日)
日本企業に焦点を当ててみましょう。なぜ、日本企業では読める人材が育たないのでしょう。そこにはいくつかの問題点があります。まず第一に中国語の必要性そのものに対する認識不足です。「英語ができれば中国語ができなくても」「中国人を雇って通訳・翻訳させれば何とかなる」と言う誤った考えです。アメリカに駐在する社員には高レベルの英語力を要求するのに、人間関係が何より重要な意味を持つ中国で、現地語で従業員や役人や実業家とコミュニケーションが取れない、更にインターネットや新聞その他の資料から情報を集められず、会議資料も読めずに翻訳を待つ、これでは中国人が快く思うはずがありません。
第二に、英語教育が「読めるけれど話せない」結果を生んだ反省を中国語教育にそのまま適用し、現地でのコミュニケーションがまず大事と会話を優先、同時並行で読める教育を始めなければならない、と言う認識に欠けることです。
第三に、修得時間数に対する無理解です。英語は社会に出るまで10年の学習歴、中国語は専攻でも4年、この差を考えれば、入社後2年間の研修で到達すべき運用能力を同レベルに設定することがどれくらい無茶かわかりますが、実際は同列に置いている企業がいかに多いことか。更に「同じ漢字を使っているからその分楽じゃないか、大体は読めるだろう、所詮漢文だ」などと言うとんでもない認識もまかり通っています。英語ならば、英語を知らない人でもどれが単語かすぐわかります。形態変化があり品詞も見分けやすい。何しろ単語が分かち書きされています。中国語は意義素としての漢字が等間隔で並んでいるだけ。漢字一つは単語にもなり得、どこまでが単語か、品詞は何か、容易に判断がつきません。前後関係が無ければ一つの文を何通りかに読める例はざらです。新聞の文章の単語をほぼ識別できるようになるには、分かち書きがある英語なら一瞬でも、中国語なら最低二年はかかります。習得に同じ時間数を設定することがいかにナンセンスかお判りでしょう。
これからの時代、インターネットから自前で自社に必要な情報を素早く収集し、日本人の目からも的確な分析を加え、独自の戦略を構築することができなければ、変化が速い中国相手のビジネスでうまくいくはずがありません。そのためには、ステークホルダーばかり気にせず、長期的人材育成にじっくり取り組む先見性が求められます。