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 第804回 中国の言語政策とその背景

(2018年1月25日)

「“一帯一路”と周辺外交という国家戦略をよりしっかり支えるために北京外語大学は“非通用言語”(マイナー言語の意。“小語種”とも)関係の人材育成・蓄積に力を入れる」。これは2015年4月2日に人民日報に掲載された彭竜北京外語大学学長の言葉です。2015年、同大学にはすでに全国の大学で最多の64の外国語専攻(EU加盟国の公用語24種、ASEAN10カ国の公用語を含む)が設けられ、また、22の“小語種”が全国唯一の拠点になっていました。こういった動きには習近平の考えが色濃く反映されており、その前年、2014年に習近平はドイツのベルリンでドイツの漢学者や中国語学習者、また、孔子学院関係者を接見した際、相互文化理解における言語の重要性を力説しました。
“一帯一路”の沿線諸国は60カ国を超え、ほぼ同数の公用語が存在しますが、2015年末時点では、そのうち3分の一が未開設状態でした。英語だけでは不十分、やはり現地の言葉を通した相互理解が不可欠だ、ということが再認識され、国を挙げて本格的な取り組みがこの時点から始まった、と言ってよいでしょう。勿論、この面での先駆的な取り組みがなかったわけではなく、既に、2012年、習近平が総書記に就任した年に、教育部は国別、地域別の研究に取り組み始め、例えば、北京語言大学にはアラブ研究センターが設立され、2014年には、それを踏まえて国・地域研究所がスタートし“一帯一路”沿線諸国をカバー、同時に国内初の中東学院も開設されています。
中国語研究の泰斗、陸倹明北京大学教授は、2016年2月17日付人民日報に「言語能力は国家の総合的実力の向上に関わる」という一文を載せ、“一帯一路”に関連して、「政治上で相互に信頼し、経済が融合し、文化的に包容し合う利益共同体・運命共同体・責任共同体を構築するには“五通”(政策・インフラ・貿易・通貨・民心の疎通)を実現させなければならず、その基礎となり前提となるのが「言語による疎通」である、と主張しました。
世界には6〜7000種類の言語があると言われていますが、その94%の言語の使用者の総和は人類全体の6%でしかありません。そういった絶滅危惧種ともいえる多くの言語が“一帯一路”にも存在しているわけですが、それらの言語が担っている文化と歴史は、使用地域や使用者の多寡と関係なく大切だ、という中国の主張は傾聴に値します。

三瀦先生のコラム