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第866回 心に温もりを
(2019年4月25日)
貧困脱却と小康社会実現は習政権の当面の最大の課題の一つですが、その先の豊かな生活を目指す過程を見据え、政府が音頭を取って進めているのが心の豊かさの構築です。この方針は当然ながら社会モラルの構築という道徳的側面からの要請と密接に絡んでいますし、一方で、最近のマスコミ報道が、「共産党は心の豊かな社会を構築しているのだ」ということを印象付ける方向に重点を置き変えつつある事とも無関係ではありません。では、その「心の豊かさ」とはどんな内容を指しているのでしょうか。ここ数年の人民日報の記事の中から印象に残った記事を紹介しましょう。もう旧聞に属しますが、日本では一時期、「一杯のかけそば」という話が大きく取り上げられました。中国でもレストランで食事代を払う時に、貧しい人の分にと多めに払って支援する食堂が紹介されたことがありました。また、最近では、テレビの「深夜食堂」の中国版も登場しました。ただ、これはむしろパクリ的な設定が話題になってしまいましたが。
2年半ほど前の2017年12月8日に掲載された杭州電子科技大学学生寮寮母の徐根娣さんの話は紹介するに値します。徐さんは同大学で一四年間働き、満五五歳で定年退職することになったのですが、これを知った学生たち誰もが別れを惜しみ、抱きついて泣く者も少なくなかったのです。というのも、徐さんが、691人もいる学生全員の名前や一人ひとりの出身はもとより、日々の生活までよく知っており、繕い物までしてあげていたからです。親元を離れている多くの学生を母親に代わって気遣う徐さんの心の温かさは学生を動かし、ついには学生たちの強い要望に応じて大学側は徐さんを再雇用することにしました。
同記事に添えられたコメントでは更に香港大学の「三嫂」のエピソードを紹介しています。香港大学で四〇年以上「学生食堂のおばちゃん」と親しまれた袁蘇妹さんは、誰からも愛され、八二歳のときには大学から「名誉院士」の称号を授与されました。2017年に90歳で他界されましたが、母親のような愛情で学生の面倒を見、大学を人情味あふれる場にしたその功績が大学当局に高く評価されたのです。中国の大学生は、遠く故郷を離れて寮生活をする者が多く、最近の一人っ子には相当な試練になっているからです。
徐さんの件のような実質を伴った心温まる話が増えることを期待しましょう。