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第924回 2020年春の全人代-その1-
(2020年6月19日)
例年、3月に開催されるはずの13期全国人民代表大会第3回大会が、新型コロナ蔓延の影響で5月に開催され、28日に閉幕しました。今回の大会では、①コロナ対策 ②香港問題 ③対米問題 ④国内経済問題という四つの主要テーマがありました。①については先日、中国政府がコロナ白書を発表し、その取り組みを詳細に公表しました。残念ながら、発生源、事実の公表の遅れ等の問題には全く触れておらず、自画自賛といったきらいもありましたが、一方で、防疫体制の確立、実施対策・効果の面では、現在防疫に奮闘する諸国には参考となる内容も少なくなく、その点での貢献にも注目すべきでしょう。②の問題は、メディアが散々取り上げていますが、香港問題を考える上での重要な視点を指摘しておきます。まず、中国側が香港の一国二制度遵守の義務を負っていることは疑いなく、中国政府の近年の様々な政治的措置と有形無形の圧力が、今大会における国家安全法導入やむなし、という事態を自ら招いたことは明白です。一方、一国二制度遵守という前提に立って、香港人の「自由、民主、人権」とは何か、も真剣に問い直すべきでしょう。
もう一点は、歴史の冷厳な事実にどう対処するか、ということです。香港という独特の文化の形成は、歴史的観点から見れば、列強の中国侵略と東西冷戦による落とし子、冷酷な表現を用いれば、歴史に咲いたあだ花、とも言えます。しかし、落とし子であれ、あだ花であれ、そこから生じた文化に人々が普遍的価値を認めれば、永遠の命を賦与されることもまた可能です。ただ、深圳をはじめ香港に隣接する地域の繁栄が限りなく香港に近づき、貿易、金融面でも肩を並べ、技術革新においては凌駕するにまで至った今日、香港が貿易・金融面での独特な地位と、海のシルクロードの起点としての利点(ライバルも多い)だけで従来の繁栄を維持できるかは保証できません。皮肉なことに、資本取引の自由化など、中国内地の対外開放が進めば進むほど香港の地位は相対的に低下し、内向きの強権政治が存続すればするほど、香港の色は褪せません。言い換えれば、アメリカが中国に開放を迫る事と、香港の地位の存続とは解のない連立方程式にもなりかねないのです。
今回の措置は、香港をうまく同化させることで台湾統一を有利に導こうという基本路線を共産党政権が放棄したことを意味し、東アジアの今後の動向に大きな影響を与えかねません。