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第932回 「中国式民主」を探る
(2020年8月20日)
香港問題が重大化し、その中で「香港の民主と人権を守れ」というスローガンが声高に叫ばれています。当然これに対し中国側は強硬に反論していますが、そもそも中国では「民主」をどう捉えているのか、その点を探ってみましょう。ここ5年間の中国における「民主」論議は、大別すると「中国独自の社会主義民主」と「“協商”民主」の2点に絞られます。2015年の全国人民代表大会成立60周年大会で習近平は重要講話を発表し、その中で、「世界に完全に同一の政治制度は存在せず、全ての国に適用される政治モデルも存在しない」、「民主政治には本来、固定化されたモデルはなく、民主の本質・内容・形式はそれぞれの国の生産力の発展レベル、社会制度の性質によって決定されるのであり、その国の歴史や文化、経済社会の発展を踏まえて長期的に発展し、徐々に改善され、内発的に変化した結果である」と述べました。
同じ2015年に中国人民出版社から『让民主归位』という本が出版されました。著者の楊光斌氏は中国人民大学の教授兼同大比較政治研究所所長です。その中で同氏は著名な学者の論調を逐一紹介しつつ、西洋社会で育まれた民主の特徴を、歴史的経緯を踏まえながら指摘し、多数決原理による選挙民主と真の民主との乖離を様々な事例を挙げて解析しています。また、民主政治の先進導入国と後発導入国の明暗も克明にトレースし、単民族国家と多民族国家、単一宗教国家と多宗教国家という視点も絡ませて、選挙民主の光と影を鮮明に浮かび上がらせています。こういった氏の試みは相応の成果を収めていますが、一方で、香港や台湾の「民主」の評価といった現実的な政治問題と、これに深くかかわる中国の共産党による一党独裁政治の正当性という極めて敏感な問題については、「集中と分権」という観点から、戒めるべき重要な指摘をしてはいるものの、やはりまず結論ありきの感も否めません。
「世界の歴史が西洋式民主に止まるはずはない」、「民主を西側の基準で判断してはならない」、「中国が西側の個人主体の民主を実行することはない」、「我々自身の民主に関する発言権を確立しよう」、「中国の大地に根差した民主を」、「中国式民主がなぜ国情に合致するのか」、「中国独自の民主制度に確固たる自信を」、「協商民主は中国の国情に合致した民主実現形式である」、これらは皆、ここ数年、人民日報に掲載された民主関係記事のタイトルです。