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第938回 麻薬問題の現状
(2020年10月1日)
中国では90年代末以降、麻薬の蔓延が顕著になりました。政府は既にそれ以前の1990年に公安部や衛生部などを中心に25の部門を糾合して「国家禁毒委員会」を成立させ、98年には公安部に禁毒局を設けるなど行政組織を整備し、2005年からは「禁毒人民戦争」を展開し始めました。こうした動きと並行して、政府は関連法規の整備を進め、2008年には<禁毒法>を制定、これによって中国の麻薬取り締まりは新しい段階へ突入しました。5年前の2015年6月、中国政府は<2014年中国麻薬状況報告>で、国内の麻薬蔓延状況を初めて対外的に公表しました。それによると、2014年末時点で、全国の吸飲者数は解っているだけで295.5万人、実際には1400万人以上と推定され、とくにその半数以上が35歳以上と、低年齢化の傾向を示していました。
こうした麻薬はどこから中国国内に流入しているのでしょうか。報告によると、雲南省と広西チワン族自治区は黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)に隣接しており、麻薬の直接流入地域になっています。麻薬はそこから隣接する貴州省や四川省、さらには重慶市・湖南省・湖北省へと拡散しています。一方、黄金の三日月地帯(ゴールデンクレセント)からのヘロインは広東省を経由して中国西南部・西北部・華南地域へ、覚醒剤は主に東北・華東・華中方面へ流入しています。そこで中国政府はアメリカやオーストラリア等とも麻薬取り締まりの国際協力を進め、東南アジアでは、タイ、ラオス、ベトナム、ミャンマーなどと協力しつつ、グレーターメコン麻薬取締国際協力を積極的に推進しています。
2020年6月23日の人民日報は<全力で新時代の“禁毒人民戦争”に勝利しよう>という記事を掲げ、ここ5年間の成果を強調しましたが、その中で注目されるのがネットを利用した麻薬の蔓延です。ECの発展により、ネットは麻薬販売の格好のルートになり、さらに、製造-販売—吸引といったチェーンを形成しています。そこで政府は<ネット麻薬取締活動強化に関する意見>を出し、ネット麻薬取締特別キャンペーンを実施して摘発に取り組んでいます。政府はまた、麻薬吸飲者の低年齢化に対処すべく、学校教育にも力を入れ、その結果、35歳以下の吸飲者比率は2015年の64%が2018年には13%にまで減少しました。その他、麻薬吸引による貧困者の増加も無視できない問題であるとして対策を強化しています。