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LastupDate:2003/10/08
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コラム、『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第一回 肖像権

(2003年10月8日執筆)


1.中国人の権利意識(1)―肖像権

中国人はどのような権利意識を持っているのだろうか。中国人の法意識を考察するに当たって、はじめに権利意識について見てみたい。権利意識と一口に言っても、さまざまな場面で発現するものである。第1回目として肖像権にかかわる紛争事例を取り上げる。

事例1 肖像権侵害紛争

(「董雲訴南陽市虹光撮影図片社未経同意向他人提供其照片侵犯肖像権紛糾案」最高人民法院中国応用法学研究所編『人民法院案例選(1992年−1996年合訂本)(上)』人民法院出版社、1997年、480−484頁)

1 事件の概要

1993年12月、董雲(原告。以下、「X」という。)は、南陽市虹光撮影図片社(被告。以下、「Y1」という。)でパンダのぬいぐるみを抱いた上半身の写真を撮影してもらった。1994年2月、南陽市虹光撮影図片社は、前記写真をXに断りなく、同社による撮影写真として、南陽市郵電局(被告。以下、「Y2」という。)の雑誌『南陽郵電』に掲載した。 そこで、Xは、Y1とY2を相手取って河南省南陽市臥龍区人民法院に肖像権侵害の訴えを提起した。 Xは、訴えに際して、以下のとおりの主張をした。 「写真が雑誌に掲載された後、Xの職場で次のようなうわさが立った。例えば、“Xは広告で金を稼いでいる。”、“雑誌で自分をひけらかしている”、“パンダと美を競っている。”などである。Xは、これにより損害を被った。Yと協議による解決を試みたが不調であった。YはXの写真を無断で使用し、これにより同僚との関係が悪くなり、同僚の前に出辛くなり、精神的な負担および苦痛を受け、頭痛・めまいから通院治療した。そこで、Yに謝罪、交通費・無給休暇せざるを得なかったときの費用、治療費および精神的賠償を請求する。」
   法院は、以下のとおりの判決を下した。
  1. Y1とY2は、『南陽郵電』誌上で謝罪せよ。
  2.  Y1とY2は、Xの経済損失(交通費および医療費の実費、Xが休暇をとった間の給与相当分)および2,000元の精神的損害賠償をせよ。

2 検討課題

 法律問題として事例研究を行なう場合には、上記事例において法院が、(1)争点として何を取り上げ、(2)どのような判断基準により、(3)この判断基準をどのように適用し、その結果(4)どのような判決を下したのかを分析・検討することになる。
   この場合、法的論点としては、(1)民法通則100条の肖像権の立法趣旨、(2)肖像権の内容、(3)肖像権侵害の要件、(4)肖像権侵害行為の損害賠償の範囲ということになる。
   しかし、中国人の法意識を理解したいという本稿の趣旨からは、別の争点を取り上げることになる。中国人の法意識を理解するうえで、どのような争点があるかというと、以下のとおりである。
   第一に、権利意識についてである。これを理解するには、Xは訴えに際して如何なる主張をしたかにより判断できる。
  Xの主張は次の諸点である。(1)職場で理由のない噂話が広がることが耐えられなかった。また、(2)このことで同僚との関係が気まずくなった。(3)このため出勤できなくなり、給与が支払われなかった。(4)体調を崩し通院したことで、交通費、治療費がかかった。(5)精神的苦痛を受けた。
   Xの訴えの権利意識の根本にあるものは何か。精神的損害賠償を求めるのは、上記(1)、(2)が理由である。法院もXのこの権利主張を認定した。ここから中国人には、どのような権利意識があると考えられるだろうか。Xにとって、@噂話の内容に誤りがあったことが問題であるのか、A噂話の対象になったことが問題であるのか、B調べようもないが、同僚との関係が気まずくなる過程で、Xや同僚はどのような行為ややり取りがあったのかなども、権利意識を知る上では重要な争点となり得る。

  第二に、Xの主張の中で、「Yと協議による解決を試みたが不調であった。」ということをとりわけ述べているのはなぜかということがある。この点は、そもそも法院が判決を下す争点ではない。これをなぜ、Xは主張の中で述べておき、法院もわざわざ評釈の中で叙述したのか。裁判よりも当事者の友好的協議による和解を試みる過程が重要視されるということがあり、訴えの前にこの様な手続が踏まれたということを念のため主張しておく必要があるということなのであろうか。この点も興味深い主張である。

   以上の2つの争点がなぜ主張されたのかについて、筆者自身は、現時点では結論は出せない。今後のさまざまな事例研究を通じて、何らかの解答が出せれば幸いであると考えている。むしろ、読者の意見・理解の仕方を海外放送センターにお寄せいただき、研究の糧とさせていただければ幸いである。

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