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LastupDate:2003/10/22
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コラム、『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第二回 名誉権@

(2003年10月22日執筆)


1.中国人の権利意識(2)―名誉権@


  中国人にとって名誉とは何か。名誉が侵害されたと感じるのは、どのようなときだろうか。名誉が侵害されたとき、この権利はどのように回復されるのだろうか。中国において名誉権は、どのように確保されるのだろうか。 この問題を検討することは、中国における企業経営(独資企業や合弁企業)の中でも、人事労務管理を如何にすればよいかを理解するうえで重要である。

事例2 名誉権侵害紛争

(「王穎、倪倍璐訴中国国際貿易中心購物時被非法盤査侵害名誉権糾紛案」最高人民法院中国応用法学研究所編『人民法院案例選(1992年−1996年合訂本)(上)』人民法院出版社、1997年、495−499頁)

1 事件の概要


  王穎(女、22歳)と倪倍璐(女、20歳)は、1991年12月23日に中国国際貿易センター内のスーパーで買い物をした。スーパーから出たときに、スーパー店員が追いかけてきて、「支払いをせずに持ち出した品物があるでしょ。」と詰問した。王と倪の二人は、否定したもののスーパーのレジ台まで連れて行かれ、手荷物を検査された。この間、スーパー店員は、「万引きしたといったら万引きしたんだ」などと非難を続けていた。その後、王と倪は事務室にまで連れて行かれ、続けて詰問、検査された。この状況下で王と倪は、衣服を脱がされるなどの検査を受けた。ところが、万引きしたものは見つからず、当該店員は二人に謝罪をした。
   王と倪は、この屈辱を受け、名誉を汚された後、精神的打撃から外出もできなくなった。1992年6月3日、王と倪(原告)は、中国国際貿易センター(被告)を相手取って、北京市朝陽区人民法院に名誉権侵害の訴えを提起し、謝罪、名誉の回復、経済損失および精神的損害賠償を要求した。
   法院は、原告の訴えを認容し、被告に対する謝罪および損害賠償、ならびに被告の企業管理制度の改善および従業員のサービス態度の改善を勧告し、和解するように勧めた。
   原告および被告は、法院の和解勧告を入れ、調停方式による紛争解決を行なった。
   そこで、法院は、次のとおりの調停判断を下した。
「被告は、原告に謝罪し、かつ賠償金2000元を支払え。これにより訴訟目的は達成されるから、法院に対する訴えは取り下げよ。」

2 検討課題


  憲法第38条は「中華人民共和国公民の人格の尊厳は、侵されない。如何なる方法によっても公民を侮辱、誹謗または誣告し陥れることを禁止する。」と規定し、中国民法通則第101条は「公民および法人は名誉権を有し、公民の人格の尊厳は法律の保護を受け、侮辱、誹謗などによって、公民および法人の名誉を損なうことを禁止する。」と規定している。これにより名誉権が確保されている。また、憲法第37条は、公民の身体に対する不法な捜査を禁止している。 本件においては、事例紹介から読む限り、明らかにスーパー店員に行き過ぎがあり、原告の名誉は汚され、法院の判断は正しいと考えられる。
  ただ、この結論からは、はじめに指摘した問題意識、すなわち(1)名誉とは、何か。(2)名誉が侵害されたと感じるのは、どのようなときだろうか。(3)名誉が侵害されたとき、この権利はどのように回復されるのだろうかという点に関しては、必ずしも解答が得られていないと考える。
  名誉を回復したいのであれば、原告は裁判所の調停勧告にもかかわらず、裁判で白黒決着をつけるほうがいいのではないか。このように言うのは、調停は妥協点を探るはずであるから、見方によっては原告の全面勝利とは考えられないことがあると考えるからである。それにもかかわらず、調停方式によったのはなぜか。また法院もなぜ和解を勧告したのか。さらに、和解勧告の中で、被告の企業管理制度の改善および従業員のサービス態度の改善を勧告したのはなぜか、というような点が気にかかる。被告はどのような謝罪をしたのか、2000元の賠償金は経済損失および精神的損害賠償であると考えるが、この算出基準は何かというような争点もある。これらは、今後の検討課題としておきたい。
  読者の方々は、どのように考えるだろうか。

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