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Last Update:2018/6/27
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コラム『チャイナウォール』-中国人の法意識-

第358回 AI時代の到来と法・裁判

(2018年6月27日)

  中国でAIの研究及び実際社会での応用が急速に進んでいる。産業経済や教育分野ばかりでなく、情報の利用をする法学分野、さらには司法実務分野でも具体的な利用が始まっている。
  最高人民法院は、2017年4月に「関于加速建設智慧法院的意見」(スマート法院建設加速に関する意見)を発布し、2020年には人民法院の情報化を基本的に完成させるとしている。これは、「国家情報化発展戦略綱要」、「“十三五”国家情報化規劃」に基づき、「人民法院の情報化建設5カ年計画(2016—2020)」の任務達成を確保しようとする一環である。そこで今、全国の法院でAIの活用が具体的に始まっている。
  とりわけ知的財産権分野での利用が進んでいるだろうか。国務院知的財産権戦略実施活動部局間合同会議弁公室は、2017年に「国家知的財産権戦略の実施徹底による知的財産権強国建設推進加速計画」を発布している。中国で知的財産権に関する権利意識が強まっている。特許申請が多いことは周知の通りであろう。こうした中で知財権をめぐる紛争も著しく増え、その紛争処理に裁判官の人材不足もあり、時間がかかっているという現状がある。そこで、重慶市両江新区知的財産権法廷は、2018年初からAI及びビッグデータ技術により、公判前の論点整理及び判決文書をAIにより自動作成するシステムを導入した。
  このシステムは、法院が同様の事案をデータ化し、AIに基本的な審理をさせ、さらに判決文案も作成させるというものである。具体的には、紛争当事者が法廷の作成したプラットフォームにログインし、関連情報を入力すると、AIが挙証通知書、公判召喚状など公判前書類を自動作成し、過去の類似事案に基づいて審理をし、結審までする。2018年4月30日の新華社電によると、2018年1月の利用開始から4月末までにカラオケの音楽著作権侵害事案で約30件の利用がされたという。
  アリババ集団は、傘下のクラウドサービス会社「アリババクラウド」(阿里雲)を通じて裁判のライブ配信などをしている「新視雲」社と提携して、司法部門との協力の下でAI技術を活用した「クラウド法廷」を構築すると発表している。杭州市西湖区人民法院は、「アリババクラウド」のAI(ETシステム)を書記官として使う実験を進めている。
  なお、仮に「アリババクラウド」(阿里雲)が独自に裁判を行うようなことが可能であれば、この場合には民間の調停機関というような意味合いになるだろうが、紛争の迅速、廉価な解決ということも見込まれるようになる可能性がある。
  AI時代の到来と法・裁判ということを考えた場合、現時点においてあらゆる面(民事事件だけでなく刑事事件なども含めて)で、本当に有効利用ができるか否かは、人格や尊厳、人の感情などさまざまな面で問題があり、判然としないものがあるが、研究が遅れている日本にとっては、先行研究や先行事例として参考となることがあるかも知れない。

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