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LastupDate:2003/11/12
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コラム、『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第三回 名誉権A

(2003年11月12日執筆)


1.中国人の権利意識(3)―名誉権


  今回紹介するのは、中国の法院で初めて故人の名誉権が争われた事件である。ここで、中国法院における名誉の定義、名誉権侵害の認定基準が示されている。

事例3 故人を主人公とした新聞小説をその親族が故人の名誉権侵害で訴える

(「陳秀琴訴魏錫林在報紙上発表連載小説侵害已故女児名誉権糾紛案」最高人民法院中国応用法学研究所編『人民法院案例選(1992年−1996年合訂本)(上)』人民法院出版社、1997年、533−539頁)

1 事件の概要


   陳秀琴(原告)は、魏錫林が『今晩報』紙上で連載した小説が、原告の子(故・吉文貞)の名誉を毀損しているとして、魏錫林(被告)および今晩報社(被告)を相手取った訴えを天津市中級人民法院に提起した。
  原告の子である吉文貞(芸名・荷花女)は、天津の劇団女優であったが1944年に19歳で病気のために死去している。魏錫林は、吉文貞を主人公とした小説『荷花女』を『今晩報』紙上で連載していた。同小説は、吉文貞(芸名・荷花女)を実名で登場させた。小説はフィクションであるが、吉文貞が17歳から19歳までの2年間に、3人の男性と恋愛し、結納し、かつ、うち一人は既婚者であったにもかかわらず、妾にして欲しいと頼み込んだことや、暴力団の組長ほかに暴行され、最後は性病にかかり死んだことなどを描写していた。
  陳秀琴(原告)は、この小説に抗議し、連載の打切りなどを被告に要求したが、受け入れられなかった。そこで、法院に名誉権侵害の訴えを提起し、(1)謝罪、(2)小説の出版禁止、(3)精神的・経済的損害賠償2800元を要求した。 法院は、以下のとおり認定した。
  名誉権は公民の死亡後にも保護される。フィクション小説でも、実名を使用していることは、当該人の人格の尊厳にかかわり、勝手に人物像を作り上げることは法律および道徳上も許されない。小説は、故人の名誉を傷つけたほか、親族の名誉も傷つけている。よって、(1)被告は『今晩報』に3日連続して謝罪声明を掲載し、故人の名誉を回復せよ。(2)被告は、損害賠償400元を原告に支払え。

2 検討課題


  公民の名誉とは何か。これについて李玉光、李国忠(天津市高級人民法院)は、次のように述べる。
「公民の名誉とは、社会において一般人の当該公民の人徳、声望、素質、信用、才能に対する評価である。この社会的評価は、公民故人の社会における地位と尊厳に直接にかかわり、それは公民が社会で承認され、尊重される一種の基準である。」
   本件は、被告が天津市高級人民法院に上訴し、高級人民法院は最高人民法院に意見を求めているが、最高人民法院も中級人民法院の判決を適当と認め、高級人民法院は被告の訴えを棄却した。
   「名誉」は、中国人を理解する場合の一つのキーワードであるかもしれない。サマセット・モームは、「フランス人が名誉をひどく潔癖に気にする……、名誉こそフランス人にとっては文字通りの生命力で、彼らの名誉感覚の鋭さをいつも心に留めていないと、彼らを理解することは覚束ない。」(サマセット・モーム(小池滋訳)『中国の屏風』筑摩書房、1996年、71頁)という。モームの言葉を借りれば、「異国間の友好関係を損なう最悪の障害は、相互の特質について抱き合う途方もない誤解である。」(同前)から、日中間の友好関係を構築し、維持するには、如何に違いを知り、理解するかが重要であるということであろう。

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