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LastupDate:2008/9/24
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第122回 オリンピック後経済に労働力不足と虚構消費の翳り

(2008年9月24日)

  北京オリンピック後の経済について、2つの大きな不安要素がある。それは、(1)労働力不足と(2)虚構消費の翳りである。すなわち、(1)輸出主導型で成長してきた中国経済に労働力不足の問題が現実的な危機になるのではないかという懸念があり、(2)このために内需を拡大するにしても、内需経済を支えてきた多くの富裕層・中間層の消費は、虚構消費であり、この消費に翳りが出始めるのではないかという懸念である。
  (1)これまで中国経済は、低賃金労働者が豊富にいることをもって安い工業製品を生産し、これを輸出するという輸出主導型の経済発展を遂げてきた。しかし、ここ数年の間に最低賃金はおよそ2倍にもなっている。
  2008年1月1日に施行された労働契約法は、@労働者の終身雇用を促すものであり、A企業業績に応じるとはいえ、労働者の賃上げを要請している。このことは、企業をして労働者の雇用を慎重にさせ、終身雇用労働者が増えれば当然に企業の生産コスト(人件費)が増すことにもなる。
  ところが、都市部の失業者やレイオフされている労働者は、40歳以上が大半であり、企業が採用しようとする場合の魅力的な労働力とはなりえていない。大卒者の20%は就職先が見つからないといわれるが、彼らはブルーカラーにはなりえない。
  そうであると生産企業にとっては、労働力不足という状況が生じることになる。発展途上国が豊富な低賃金労働力をもって高度成長した後に、賃金の上昇が始まると労働力不足が生じ始めるというターニング・ポイントがある。このターニング・ポイントを過ぎるとインフレが発生し、経済成長が減速し始め、労働力不足が生じるという理論(Lewisian Turning Point)がある。オリンピック後の中国経済は、まさにこの段階に来ているようである(NIKKEI WEEKLY, 2008年8月25日)。
  (2)貧富の格差が拡大していることは、周知のとおりである。孫政才農業部長は、2007年の都市住民と農村住民の所得費が3.33:1に拡大したことを発表した(新華社、2008年9月3日)。現実には、この所得格差はもっと大きそうであるし、都市住民の間でも所得格差が拡大している。
  経済成長を支える消費も順調であったようだが、最近ではこの消費は奇形であるということがいわれる(余少祥『弱者的権利−社会弱勢群体保護的法理研究』社会科学文献出版社、2008年、132頁)。
  奇形であるというのは、消費者が現実よりも自らの豊かさを誇示したい「面子」といったような消費者心理から消費を維持していたということをいう。この消費は、安定的、平均的に伸びるのではなく、実態よりも急激なカーブで成長してきた。すなわち、背伸びした、無理をした消費であったという。この場合、経済成長に不透明感が生じ、所得増加の予測が不透明になり、または所得が減少したときには、消費は急激に冷え込むことになる。
  オリンピック後の中国経済は、外需主導型から内需主導に転換する必要があるとき、(1)労働力不足と(2)虚構消費の翳りという問題をいかに克服するのかという非常に大きな課題を抱えている。


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