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LastupDate:2008/8/27
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第120回 高まる社会不安係数−弱者の権利

(2008年8月27日)

  社会的弱者が、彼らの権利は剥奪されていると感じるようになると社会不安係数が高まり、暴力事件なども増えるといわれる。
  北京大学の夏学鑾教授は、中国で富裕者の拉致事件が増えているという。夏教授は、このような事件は、弱者が土地を失い、労働の場を失い、生活が立ち行かなくなった結果発生するもので、富裕層を憎んでのものではないという(余少祥『弱者的権利−社会弱勢群体保護的法理研究』社会科学文献出版社、2008年、137頁)。
  全国各地で発生している労働ストや農村での徴税に対する反対運動などが、年々増加し、規模も大きくなっていることは周知のとおりだろうし、組織的な訴えたデモ行進も増加傾向である。中国社会科学院の調査によると、全国の80%以上の人が貧富の格差の存在に不満を抱いており、富裕層の富の来源に疑問を持っているという(汝信ほか編『2000年:中国社会形勢与預測』中国社会科学出版社、2000年、83頁)。
  国家計画委員会(現在の国家発展改革委員会)マクロ経済研究院によるアンケート調査では、中国の不安定要素は何かとの問いに、「腐敗した官僚主義」を選択した者が74%、「失業の増大」が66%、「貧富の格差」が63%であった(『中国社会形勢与預測』2002年版)。
  このとき政府は、公正、公平な社会分配政策・制度を検討し、貧富の格差を解決するのは当然であるが、同時に弱者の権利を保護し、権利における不公平問題を解決しなければならない。上述のとおり貧富の格差拡大が、弱者の権利も貧弱にさせたときに、社会不安係数は高まるからである。
  ところが、北京オリンピックの最中、公認デモ実施地3ヵ所が指定されているが、強制立ち退きに抵抗してデモを申請した70歳代の男女が、申請受理を拒否されただけではなく、申請時に10時間拘束され、かつ「公共の場所の秩序を乱した」として1年間の労働矯正を命じられた(朝日新聞 2008年8月22日、23日)。公安当局は、デモ申請は77件あったが、何れも不受理であると発表している。
  夏教授は、貧富の格差が拡大している中、社会教育をしっかりと行い、貧富の協調関係を形成しなければいけないという。しかし、上述の社会教育や協調の概念が、政府と貧困層、弱者との間で異なっているということになるのであろうか。
  中国の社会階層は、(1)政治・経済のごく少数の精鋭が上層社会を形成し、(2)都市の国家・地方公務員、企業管理者、私営企業主、専門技術者などが中間層社会を形成し、(3)大多数の農民、農民工、一般労働者・職員、商店主、失業者らが下層社会を形成している。経済体制改革および市場経済化を進展させようとする過程において、必ずしも平等・公平、機会均等の経済政策はとられてこなかった。持てる者が、持たざる者から更なる略奪をし、このことが今日、ますます貧富の格差を拡大し、貧困人口(権利の貧困を含む。)を増やしている(前掲、余、131-132頁)。余は、すでに座視できない状況であるという。
  中国政府が景気浮揚のために1,500億元の減税と2,200億元の財政支出といった経済政策を近く打ち出すのではないかという予測が報じられた(『21世紀経済報道』2008年8月21日、朝日新聞 2008年8月22日)。短期的にはこのような政策があるにしても、長期的には貧富の格差を解消するための経済制度、政策および法の整備が必要になる。


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