コラムに関する感想
お問い合わせ
LastupDate:2008/6/25
トップチャイナウォール
コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第116回 四川大地震
―情報公開と民主的監視メカニズム

(2008年6月25日)

  四川大地震から1ヶ月が経つが、この間に(1)情報公開の不十分さと(2)市民による民主的監視メカニズムの欠如という問題が明らかになってきたように思われる。または、改革により進展していた情報公開と民主的監視メカニズムが、四川大地震により後退したということがいえるのかも知れない。
  四川大地震の発生後、中国政府は外国の医療隊や救援物資を積極的に受け入れ、国際社会に開かれたという印象を与えた。また、中国赤十字、中華慈善総会など政府の慈善団体のほかに民間のNGOの活動、ボランティアも多く集まり、民間組織の活動の場が広がったとの印象を与えた。メディアの取材も広く認められ、情報公開もなされていると評価された。
  しかし、地震後1ヶ月間の間に依然として改善されない問題も顕在化してきた。例えば、成都市公安局錦江分局が赤十字の名義でテントや寝袋など救援物資を商店に売却し、不当な利益を得たり(中国民商法律網http://www.civillaw.com.cn/Article/default.asp?id=39309)、義援金を着服をするという役人の腐敗、「テントどころか飲料水も届かない。村の幹部は“いやなら隣村へ行け”と取り合わない」(日本経済新聞 2008年6月13日)というコネ社会の蔓延、そもそもの生活格差の存在も再認識されることになった。中国社会が抱える腐敗や癒着の深刻さがあぶりだされた(東京新聞 2008年6月15日)。
  倒壊した中学校建設をめぐっては、おから工事(豆腐渣工程)により暴利をむさぼったものが存在するはずである。そうであるところ、約300人が犠牲となった都江堰市の中学校の保護者が集団訴訟をしようと裁判所に向かったところ、警官により提訴が阻まれたという(日本経済新聞 2008年6月13日)。
  当初は外国メディアにも情報を公開し、民間組織やボランティアの活動を積極的に受け入れてきた中国政府であるが、地方政府やその関係部門による不正行為があり、市民が「おから工事」の原因、責任の所在を明らかにし、これを問責しようとするような行為が、政府に向かいかねない情況がこの1ヶ月の間にでてきたときに、「社会の安定」を志向する中央政府において、また既得権益を継続して確保したい地方政府などにおいて、保守的傾向が強まっている。メディアによる取材が禁止されることも目立ってきたという。極端には、外国人記者が取材しようとしたところ地方政府当局に連行される事件も相次いでいる(東京新聞 2008年6月6日)。
  四川省遂寧市のケンタッキー・フライド・チキン店が、住民から義援金が少ないとして住民による抗議活動があり、ガラスを割られ、一時休業に追い込まれたという事件も伝えられる(日本経済新聞 2008年6月6日)。商務部が5月末にウェブ上に外国企業の四川大地震に対する義援金の金額ランキングを発表したのがきっかけであった(NIKKEI WEEKLY 2008年6月9日)。商務部は、直近では6月19 日現在の460 社の数字を「多国籍企業、外商投資企業および台湾・香港・マカオ企業の義援金一覧表」として発表している(合計では現金31.44億元、現物6.32億元http://www.mofcom.gov.cn/accessory/200806/1213868097764.xls)。このランキングは、金額を含めて正確なものではないという。しかし、これをみて義援金額が少ない外資企業に対する市民によるバッシングが生じている。商務部がこのような義援金額リストを公表する意義はどこにあるのだろうか。何を意図して、これを公表しているのであろうか。このようなときに中国において、しばしば「排外的ナショナリズム」が生じることがある。
  改革にブレーキがかかるのではないかと懸念される。改革にブレーキをかけるのではなく、このときにこそ情報公開をさらに積極的にし、腐敗を正し、むしろ市民による民主的・社会的な監視メカニズムを構築することこそが、政府に対する信頼感を強め、社会の安定にとっても有利になると考えるがどうなのであろうか。


次回は7月9日(水)の更新予定です。

※サイトの記事の無断転用等を禁じます。


© Copyright 2002-2007 OBC-China Reserved.  
"chinavi.jp" "ちゃいなび" "チャイナビ" "中国ナビ"はOBC-Chinaの商標です。