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(2008年10月8日)
2008年9月3日にコカ・コーラ社が、匯源公司の買収に関する申請書類を独占禁止法と国務院の「事業者集中の申告基準に関する規定」(2008年8月4日公布、同日施行)の定めに基づき、商務部に提出したことが報道された。 匯源公司は、北京に本社を置く中国最大の飲料メーカーであり、同時に中国で最も著名なブランドである。あるネットが、この企業買収計画について一般市民の賛否をネット上でアンケート調査したところ、10日間にのべ46.2万人のアクセスがあり、反対が79.4%にも上っているという。反対理由は、中国が育てた固有ブランドが外資に買収されることに対して、民族感情として認めがたいということである。 中国国内の同業者の推計によると、コカ・コーラ社は果汁市場の市場販売額の9.7%を占め、匯源公司は同56.8%を占めており、両者が合併すれば60%超のシェアになるという。これは中国国内の同業他社としては、認められない合併だと主張する。 しかし、これに対してコカ・コーラ社は、中国飲料年報(2008年版)によれば、コカ・コーラ社が匯源公司を買収しても、飲料市場(炭酸飲料と果汁飲料)に占めるシェアは20%以下であるという。 独禁法および「事業者集中申告規定」においては、なお事業集中の概念、判断基準が不明確であり、不透明さがある。何を判断基準とするか。飲料製品という広義の分野で判断するのか、果汁飲料という狭義の分野で判断するのか。その時々に行政機関の裁量で判断基準が変わることのないように、実務的には、業界別の明確な事業集中の判断基準が示されることを期待したい。 また、多くの民族感情が、企業買収に反対していることも、法に基づいた公正な判断がなされるか不安にさせる。外国投資者は、中国国内企業の買収は必ずしも容易には認められないのではないかとも懸念する。 このように感情的な民意、民族感情が伝えられているところ、法制日報は「匯源買収には法的思考を持つべきである」(対匯源併購案応有更広的法律思維)という仇京栄の署名記事を掲載している(http://www.legaldaily.com.cn/2007fycj/2008-09/22/content_949628.htm)。 仇は、次のようにいう。「人々は、もっと胸襟を開き、公正な法律の規定に従った判断に委ねるのが良い。かつての中国の著名ブランドや老舗が衰退したのは、外資に買収されたからではなく、競争力を失ったからである。民族ブランドを最も有効に保護するのは、政策によって外資を拒むことではなく、公平な競争環境のなかで中国最強の民族ブランドを形成することである。」 仇の主張は、民族感情に流されない、冷静で公正な意見である。従来は、このような見解が述べられることはあまり多くなかったようである。しかし、中国において国内の産業間および地域間格差が拡大しており、資源の効率的利用を図るためには、市場の流動性を阻害する要因を排除することが必要であって、このために公正な競争環境を形成することが不可欠であるという認識が高まってきたということがいえるのかも知れない。
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