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LastupDate:2010/4/28
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第161回 食品安全法における懲罰的賠償

(2010年4月28日)

  前回のコラムで、権利侵害責任法(不法行為法)において懲罰的損害賠償が規定されていることを紹介した。2009年6月1日に施行された「食品安全法」は、権利侵害責任法より前に懲罰的損害賠償について規定している。
  この懲罰的損害賠償は、どのような基準で適用されるのか。消費者にとって食の安全を確保する上で、有効な規定となっているか。
  食品安全法96条2項は、食品安全基準に適合しない食品を生産し、または当該事実を知りながら販売した場合には、消費者は、生産者または販売社に損失の賠償のほかに代金の10倍の賠償金の支払を請求できると規定している。
  食品安全法の施行以来、各地で10倍賠償を請求し、認められたという事案が伝えられている。フフホトでは30元、南京では112元、武漢では93元の10倍賠償が認められた。
  些か奇異に感じるのは、数十元の賠償であり、かかる賠償額の意義がどこになるのかということである。数元の生鮮食品を購入し、食品安全基準に問題があった場合に、消費者に当該代金の10倍の賠償をすれば良いという考え方はいかがなものか。
  三鹿集団による有害物質メラミン混入粉ミルク事件では、直接責任者である元董事長ほかには、裁判で死刑および政治的権利を終身剥奪する判決が言い渡された。こうした問題をどのように考えるのか。この事件は刑事事件として裁かれているので、民事事件としての懲罰的損害賠償ということではない。しかし、民事事件として扱われる場合、懲罰的損害賠償といいながら、賠償額の算定基準が商品代金というのは、あまりにも低い基準といわざるを得ない。これでは、消費者にとって実損額にも見たないということが多く出現しそうである。中国のホームページなどでは、実際の損害に対して10倍の賠償とするのが適当であるとの意見などが見られる。また、10倍賠償で食品安全問題が果たして解決できるか?という意見も見られる。
  中国は訴訟社会であるように思える。そうであるので、紛争が多く、懲罰的損害賠償の基準を代金とでもしなければ、濫訴が生じるという立法者の懸念があったのであろうか。ここには生産者保護という視点もなくはない。
  中国で懲罰的損害賠償が規定され、食品安全法では10倍賠償が規定されているということが比較的に大きく注目されている。しかし、食品安全法96条2項の規定も不明確な点が多く、なお問題が多い。
  懲罰的損害賠償ということに関しては、その導入趣旨がもっと明確にされ、定義、適用範囲、構成要件、立証責任、賠償額の算定基準などについて、もっと検討させる必要があると考えられる。
  食品安全法の施行に伴って、食品安全委員会の設立、食品検査免除制度の取消し、食品のリコール制度の導入などの新しい制度ができている。

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