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LastupDate:2010/5/12
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第162回 80后(パーリンホウ)世代の農村離婚と「家」

(2010年5月12日)

  中国は、伝統的に「家」を重視する社会である。“Nation”は、「国家」と訳され、政府のことを「公家」ということもある。「公家」は、私人に対して、国家・公共団体・企業という意味に使われもする。また、古代には、皇帝のことを「天子」というが、時には「大家」ということもあった。
  この中国の農村で、最近、離婚が著しく多くなってきている。湖南省韶山市人民法院の場合、2007年に結審した事件175件のうち、52件が離婚案件であり、2008年には同170件中、98件、2009年には同191件中、101件であったという。
  なぜ、このように離婚が増えているのか。3つの大きな理由が指摘されている。
  第一に、(1) 80后世代(1980年以降に生まれた世代)の問題である。離婚案件のうち、この世代の離婚が多くを占めている。彼らのほとんどは、一人っ子で、自己中心的であり、社会的責任感、家庭に対する責任感が希薄であり、忍耐力がなく、寛容度がなく、すぐに他人と衝突すると評されている。
  第二に、(2)農村においては、夫婦のいずれか一方が都市に出稼ぎに出ていることが多く、都市の誘惑および刺激を受け、浮気をし、家庭を顧みなくなることがあるという。
  第三に、(3)農村の困窮家庭では、夫婦それぞれの負担が重く、夫婦間の矛盾・争いが多くなることがある。また、土地開発のための高額な移転補償費を手にして、一夜にして大金持ちになると、夫婦それぞれの異なる欲望が抑えられなくなることもあるという。
  こうした現状に直面して、人民法院は離婚事案を処理するときに、簡単に協議離婚を認めず、和解を試みることが推奨されてきている。
  (1)80后世代の離婚申立てには、離婚した夫婦が、後に後悔の念に駆られていることもよく見られるから、双方が包容的になり、意思疎通がとれるように図るのが良いという。
  (2)出稼ぎ労働者が、都市の華やかな生活の虜になったことで生じた離婚問題では、夫婦の昔の感情を思い起こさせ、子供の養育環境を十分に考慮するようにせよという。
  (3)経済問題(困窮)から生じた離婚申立てには、家庭の経済事情をよく調査して、夫婦の感情のもつれを修復するように裁判官は務め、「以和為貴」(和を以って貴しとする)に導くのが良いという。
  人民法院の裁判官の立場では、上記のような和解を図るしかないだろうが、この問題は人民法院レベルで対処できるような問題ではない。
  ある農村の人民政府は、80后世代の若者に、離婚を未然に防ごうと人生観、道徳観、社会的責任感、家庭における責任感、夫婦間の責任感に関する教育活動を始めているそうだ。
  家庭が不安定であると社会も不安定になるという懸念がもたれている。
  所得格差の拡大から、最近では生活困窮者が自暴自棄になり、小学校を襲ったりする事件が少なくなく発生している。墨子は、「治天下之国若治一家」といった。今日の中国に、とりわけ農村における離婚問題は、国の経済政策の問題である。様々な地域、階層で生じている格差問題は、今の為政者にとって喫緊の課題となっている。
  かつてラテン語の「統合するintegrare」は「癒すheal」のことを意味した。国を統合するのであれば、市民を癒す政策がとられなければならないのだろう。

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