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Last Update:2015/10/14
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第293回 従業員に跪かせる文化の背景

The cultural background:Workers kneel in front of their employer 

(2015年10月14日)

  2015年9月12日付けの蘭州晩報は、新華社の報道として瀋陽市鉄西区のある広場で次のような光景が見られたということを伝えた。
  9月9日にある火鍋店(鍋料理屋)の100人を超える従業員全員が同店の経営者の前に跪き「父母が与えてくれた生に感謝し、企業が与えてくれた就業機会に感謝し、火鍋店の顧客に感謝し、私たちを成長させてくれるチームメートに感謝します。」というスローガンを唱えていた。
  新華社の記者に対して、経営者は「団結力を高めるためのもので、一種の企業文化であり、跪いているのは従業員が自発的にしていることだ。」と回答したというが、記者はどうも信じ難く強要されているのではないかと述べている。そして、従業員を跪かせるようなことは受け入れ難く、これは企業に文化がないからだろうという。 
  労働契約は、労働者と雇用単位とが労働関係を確立し、双方の権利および義務を明確にするために、締結するものである。労働契約法第1条は、「労働契約制度を完全なものにし、労働契約の当事者双方の権利および義務を明確にし、労働者の適法な権益を保護し、調和のとれた安定的労働関係を構築し、発展させるために、この法を制定する。」と規定している。
  使用者(経営者)と労働者は、対等な関係であるものである。ただ、現実には労働者は経営者に対して弱者である。従って、作家龍応台の『中国人、あなたはなぜ怒らないのか』によると、中国人労働者は強者の不合理な要求に対しても恭順であり、自らの権利が侵害されても我慢する(不敢“生気”)ことになるという。
  新華社記者は、跪かされても従業員の誰一人として言うことを聞かない労働者は現れなかったことは、悲しく、恐ろしい文化ではないかと述べている。
  中国人は、法律で保障された権利を理解し、この権利をむしろ強く主張するようになってきていると思う。そうであるから労働者の集団ストライキも随分と多く発生している。集団ストを「弱者の抗争」として、正当性が一般的に認められている。この為に労使協議の制度も構築されてきている。
  しかしながら上述のような事実があるというのはどうしたことか。中国経済の黄金期に富を蓄積した成功者と経済成長期にこのチャンスに参加できなかった人々との間の所得格差の拡大という問題がるかも知れない。ここには、チャンスをつかむ上での機会平等がないという制度上の問題があるだろうか。または、こうは認めたくないが、国家指導者が国内外で威権主義的な政治を行っているので、強者、成功者の理論がまかり通る世の中になろうとしているのか。まだまだ弱者の権利が十分に保護されていない。  


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