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(2015年08月19日)
現在、中国で「信訪法」の起草が行われている。これは、現行の「信訪条例」(1996年施行、2005年改正施行)を法律に格上げしようとするものである。 信訪法とは何か。如何なる目的で、如何なる機能を有する法となるのであろうか。 「信訪」をどのように日本語にするのか悩ましい。「信訪」とは、信訪条例2条によれば、「公民、法人またはその他の組織が、書簡、電子メール、ファックス、電話、訪問などの方式で、国家機関に対して状況を説明し、建議および意見を提出し、または苦情を申し立て、関係国家機関が法に従ってこれを処理する活動(をする)」ことである。日本では、苦情処理制度や行政相談制度というような概念になるであろうか。 中国の信訪制度の歴史は長く、1951年に毛沢東が党文献で指示し、確立された。上述した通り、1996年に「信訪条例」が制定されている。現在、31省・市・自治区に信訪条例が存在する。また、2,800以上の県級以上の政府に信訪機関が設置され、4万の郷政府に信訪公務員が置かれている。 信訪制度の趣旨は、国家機関と人民大衆の密接な関係を保持し、申立人の適法な権利を保護し、社会主義和諧社会(調和のとれた社会)の建設を促進することである。 信訪条例には、具体的な申立てをできる事項的要件についての規定はない。しかし、北京市信訪矛盾分析研究センターが発布した「北京市社会矛盾指数研究状況および社会矛盾発生趨勢予測年度報告(2014年)」によると、実務上、以下の申立てがある。申立てが多い順番に叙述すると、(1)公共の安全、(2)住宅、および(3)医療に関する問題がとりわけ多く、(4)教育問題について申立てられることが急速に増えつつあり、(5)汚職、物価上昇および官僚の業務に対する不満が主な内容となっているという。さらに、(6)今後は産業構造の変化に伴う労使紛争に関する問題、(7)人口資源、環境などに関する行政政策に関して矛盾が生じる懸念もあると予測されている。 また、北京市信訪矛盾分析研究センターが発布した「国内群体性事件年度分析報告(2013年)」によると、不完全な統計であるが全国で発生した群衆事件は801件あったという。各地域で経済の発展レベルや産業構造が異なり、公正・公平な行政が行われていないと感じられることが少なくなく、地方政府による不当な法の強制執行が行われたときに群衆事件が発生している。 中国共産党および中央政府としては、社会矛盾の存在を明らかにし、この対処方法を分析研究する必要がある。この分析をするために北京市信訪矛盾分析研究センターが設置されている。 社会の矛盾を解決するために党・政府が「信訪制度」に対する期待には、大きいものがありそうである。そこで、「信訪制度」の実際に着目する意味がありそうである。次回以降、北京市信訪矛盾分析研究センター設置の目的、同センターの活動内容、現時点における信訪制度の課題などについて検討したい。
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