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(2015年07月22日)
2015年の中国政府活動報告は、同年の重要戦略の1つとして海外直接投資(走出去)をあげている。海外直接投資は、超高度成長に終止符を打ち、7%程度の成長率維持が目標とする新常態下で重要な戦略的意義をもっている。 中国の対外直接投資の中で対日投資は増えていない。商務部の「対外投資合作国・地区別ガイド」(2014年)によると、2013年の日本の対中投資は70.6億ドル(対前年比1.9%減)であるところ、中国の対日投資は4.34億ドル(対前年比2.23%増)でしかない。対日投資残高も18.98億ドルに過ぎない。主な投資分野は、中国としては技術レベルを高める製造業分野で投資したいところであるが、現実には非製造業の貿易、金融、物流、飲食などにとどまっている。 かかる現状に対して、施錦芳・東北財経大学国際経済貿易学院准教授は、日本の外資導入政策の変化を読み取り、中国は対日投資には重要な価値があることを認識し、投資を行う必要があると指摘している(施錦芳「日本引進外資政策新変化及我国対日投資戦略新思考」国際貿易 2015年第4期、20-23頁)。 施は、最近の対日投資には以下の特徴があると言う。 第一に、(1)非製造業のM&Aが増えている。例えば、蘇寧電器によるラオックスの買収などである。第二に、(2)資金と技術の保管型投資が増えている。2010年に中国石油国際事業有限公司が新日本石油精製の大阪製油所の49%の株式を取得したのが典型的な事案である。第三に、(3)日本の市場開拓型投資が増えていることである。ハイアールの白物家電の市場参入があげられる。第4に、(4)グローバル市場の共同開拓型の投資が増えている。ソフトバンクとアリババの提携がある。 ただ、対日投資には、(1)中国企業が総じて日本市場に対する認識が不十分であり、(2)日本の複雑な税制などを理解できずに、企業コストが高くなるといった問題が存在する。 それでも施は、中国と日本の産業構造、需給構造、技術の発展レベルなどの面で少なからず補完性があり、対日投資を増やす戦略が必要であると指摘している。日本も経済特区を設置するなど外資導入に積極的な政策を打ち出しているところである。 日本政府も経済産業省による調査などから、日本における(1)ビジネスコストの高さ、(2)日本市場の閉鎖性、特殊性、(3)製品・サービスに対するユーザーの要求水準の高さ、(4)人材確保の難しさ、(5)規制・許認可制度の厳しさ、(6)行政手続きの複雑さ、などの外資誘致の阻害要因があることは認識している。 日本企業としては、中国企業との資本・技術提携を行うことで、海外事業展開を図る戦略を考えられ余地もありそうである。
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