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Last Update:2015/05/27
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第284回 陪審員制度と民意

Jury System and public opinion

(2015年05月27日)

  2015年4月20日、第12期全国人民代表大会第14回会議において「一部地区で人民陪審員制度改革の試験業務の授権に関する決定(草案)」が審議に付された。
  人民陪審員制度は、1951年の人民法院暫定組織条例、1954年の憲法および法院組織法などで陪審員制度が明文化されている。さらに、人民陪審員制度(「人民陪審員制度の完備に関する決定」2004年8月28日公布、2005年5月1日施行)として単行法規が定められている。人民陪審員制度は、中華人民共和国成立以来60年以上の歴史があることになる。
  2014年末時点で全国の人民陪審員は21万人おり、年間に人民陪審員が参加する事件は219.6万件あった(半月談 2015年4月24日)。人民陪審員人数について言えば、2013年10月に最高人民法院が人民陪審員の2倍増計画を発表し、当時の8.7万人から2.4倍になっている。
  しかし、今日では形骸化が指摘されている。地方法院で人民陪審員の70%以上が何も発言せず、発言してもほとんどが単に「我同意」というだけであるという。これを「陪而不審」(陪席しても審理せず。)という。
  その他の問題として、 (1)人民陪審員の広範性および代表性の不足、(2)陪審事件の不明確性、(3)選任手続きの不明確さ、食券および職責の不明確さ、(4)退任および責任追及制度の不備、(5)職責履行制度の不備(仕事を休んで裁判に参加した場合の報酬保障)、ということが指摘されている。
  そこで、裁判に積極的に参画できる人材をもっと広範に選任し、民意を反映しようとする改革をしようということである。具体的に草案では、(1)選任する年齢を従来の23歳から28歳に高め、(2)学歴を大卒以上としていたのを高卒以上とし(ただし、農村を除く。)、(3)重大事件は3人以上の人民陪審員による合議廷とし、(4)法律問題については審議せず、事実の認定だけとするなどの改正が提案されている。これらは、最高人民法院の2015年の第3号文件「人民法院改革を全面的に深化させることに関する意見—人民法院第4次5カ年計画改革綱要(2014-2018年)」においても人民陪審員制度に関する改革について言及されている主要な項目と一致している。
  改革の実験は、北京、河北、黒龍江、江蘇、福建、山東、河南、広西、重慶、陝西の10省市区の5つの法院(基層人民法院および中級人民法院を含む。)で行われる。
  人民陪審員制度改革は、司法の民主化の一環である。共産党政権は、本当に人民陪審員制度をもって司法の民主を図ろうとしているのだろうか。地方人民法院が地方政府から人事権、予算権などで独立しておらず、司法の独立も確保されていないところ、人民陪審員が公正に選任され、機能するか疑わしい。選任された人民陪審員が、すでに敷かれたレールの上で単に服従することだけに勤めはしないか。前述した最高人民法院の2015年の第3号文件では、新たに選任される人民陪審員の3分の2以上は基層の大衆から選任しなければならないとしている。共産党政府は、彼らに何を求めるのか。形式的な改革で民意の反映を装うだけに過ぎないことになる可能性が大きい。


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