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Last Update:2015/05/13
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第283回 憲法学者のジレンマ

a dilemma for constitutional scholar

(2015年05月13日)

  中国はいかなる立憲体制を構築しようとしているのか。または、立憲体制を嫌うのか。中国憲法は、中国の政治経済に大きな貢献をしてきたのか。今後、いかなる貢献ができるのか。
  憲法学者は、中国経済の経済成長に憲法が果たしてきた役割が大きいと言う。憲法学者として自負しているようであるが、これが本心であるのか。もし、本心からこのように言っているとすれば、違うような気もする。もし、本心でないならば、かかる発言をしなければならない背景は何か。かかる発言をすることに忸怩たる思いもありそうではある。憲法の本来の役割をどのように考えているのであろうか。憲法学者は、ジレンマに悩んでいるのではないだろうか。
  ◇ ◇ ◇ ◇
  ある中国の憲法学者は、改革開放後35年来の中国経済が持続的高度成長を遂げた最も肝心な要素は、伝統的憲法要素ではなく、革新的憲法要素であると言う。
  伝統的憲法要素とは、以下のものを言う。(1)統一的国家のイデオロギー、(2)一党による執政、(3)執政党の財産と国家の財産の不可分を基礎とする党国体制、(4)生産資財の公有制を基礎とする経済制度、(5)国有経済の国民経済における主導的地位、(6)労働に応じた分配制度、(7)公共財産の神聖不可侵、(8)人民代表大会制度、(9)民主集中制、(10)ほぼ権力を制約されることのない政府の存在。
  革新的憲法要素とは、以下のものを言う。(1)経済発展を中心にする。(2)改革開放を堅持する。(3)法による治国を実行し、社会主義の法治国家を建設する。(4)生産要素に応じた分配を実行する。(5)非公有制経済の発展を奨励する。(6)社会主義市場経済を実行する。(7)非公有制経済の合法的な権利と利益を保護する。(8)社会主義の民主を発展させる。(9)人権を尊重し保障する。(10)公民の私有財産権を保護する。(11)公民の基本的権利に対する憲法保障を強化する。
  憲法学者は、憲法に革新的要素を加える改正をしたから経済が成長したのだと自負している。そうだろうか。実体経済があって、これを後追いするかたちで憲法改正が行われてきたことは周知の通りであり、憲法学者の発案により革新的憲法要素が創造されたわけではない。このような発言は、必ずしも憲法学者の本心ではないだろう。このようなかたちで憲法の位置付けを高めようという憲法学者の苦しさがありそうである。
  しかし、多くの国家指導者および共産党幹部は、30数年来の中国GDPの持続的高成長の「功績」を、全て伝統的憲法要素の功績として記録にとどめている。したがって、憲法学者としては、革新的憲法要素が重要であることを強調したいという発言の背景があるとも思われる。
  さらに、憲法学者の本心はどこにあるのか。ある憲法学者は、次のようなことを述べている。
  中国には、相応しい立憲政治体制が整っていない。国民の基本的権利の保障の要求に正面から向き合い、社会の根本的矛盾を調整し、国民に高いレベルの公共サービスを提供しなければならない。政治体制改革における最も基本的な問題は、公権力の行使は憲法に基づき行うという立憲政治を実現することである。今日の中国において社会生活全体に影響力を発揮する基点は、経済分野から政治と法律の分野へと転換している。持続的発展と長期的安定のために中国は、政治体制改革をする必要がある。


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