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(2015年02月25日)
中国は、新常態の中でGDP至上主義から脱却し、新たな目標を作ろうとしている。 従来のような超高度成長が困難となり、また、GDP成長率が、官僚の業績評価の基準となり、出世の道具となっていたことへの反省もある。そこで、GDP成長率目標をやめ、 官僚の評価基準とすることもやめることになった。 代わりに出てきたのがGEP(Gross Ecosystem Product。生態系統総値)である。これは、国際自然保護連合(IUCN)が提唱したものである。この度、深圳市が、全国に先駆けて「都市GEP計算 体系」を推進するという発表をした。同時に、2015年にGDPとGEPを共に計算し、運用し、引き上げるシステムを実行し、GDPだけによる政治業績評 価を改めるとした(経済観察報 2015年2月2日)。 深圳市塩田区は、2013年に国家級生態文明モデル区として「塩田区生態文明建設中長期規画」を策定し、GEPシステ ムの研究を始めた。深圳市環境科学研究院の試算によると2013年の塩田区都市GEPは約1,000億元と同年のGDPの2.5倍で、一人当たりGEPは 約47万元、1平方キロメートル当たりGEPは約13億元であった。GEPの中の自然生態システム総額は、660.88億元で全体の65.09%を占め、 住民環境生態システム総額は354.52 億元で全体の34.91%を占めた。 さて、以上の通りのGEPの数値を中国の新聞報道により示しつつも、筆者はGEPの計算方法を知らない。新聞でもどの ような計算式であるのかについての叙述はない。国際的にも決まった計算方法があるわけではない。2013年の塩田区都市GEPは約1,000億元と同年の GDPの2.5倍であったと書かれていることからすると、GEPには恐らくだが中間財、燃料などのコストも全て含み、かつ企業のコストも減じることなく総 額に入れているような気がする。二酸化炭素排出などのマイナス要因も減じることはしていないのではないか。そうでなくては、GDPの2.5倍などというこ とがあり得るだろうか。 GDP至上主義、GDP成長率の目標達成度によって官僚の評価基準とすることをやめる代わりに採用され始めたGEPと いうことである。しかし、これが新たな官僚の評価基準になるということでは、あまり意味がない。深圳市塩田区の発表数値からすると、この懸念がありそうな 気がする。 「水至清則無魚」(水至って清ければ即ち魚無し)という諺がある。あまりに清い水だと魚がすめず、多少の濁りが必要で ある。清廉すぎると、かえって上手くいかないこともあるということである。GEPは、清廉さを見せつつ、官僚として出世を図る手立てとなりそうな雰囲気 だ。そうならないようにするには、GEPの計算方式を公平、公正なものにし、透明度を高める必要がある。
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