コラムに関する感想
お問い合わせ
Last Update:2015/10/28
トップチャイナウォール
コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第294回 陪審員制度改革の進展

Progress on the Reform of Jury System

(2015年10月28日)

  2015年4月24日、第12期全国人民代表大会第14回会議において「一部地区で人民陪審員制度改革の試験業務の授権に関する決定」が採択された。改革の実験は、北京、河北、黒龍江、江蘇、福建、山東、河南、広西、重慶、陝西の10省・市・区において、それぞれ省・市で基層人民法院および中級人民法院のいずれかから各5つの法院、合計50の法院で行われる。人民陪審員の2倍増計画に基づき、現在、この50法院において陪審員の選任手続が始まっている。
  陪審員制度については、本コラム「陪審員制度と民意」(第284回 2015年5月27日)において概略を紹介した。また、「市民の立法・司法手続への参与」(第90回 2015年5月23日)において陪審員の選任基準と日本の裁判員制度の違いを簡単に紹介した。今、中国はどのような陪審員制度の改革をしようとしているのか。陪審員の選任手続が進んでいる江蘇省の法院の現状を紹介し、改革の方向性を検討する。
  江蘇省では、全省123の法院の中から5箇所の法院が試験法院に選ばれた。そのうちの南京市中級人民法院では人民陪審員選任委員会を設立し、選任手続きを行った。560万人の候補者の中から第一次で2,000人に絞り、第二次でこれに3,000人を補選し、資格審査の上で998人に絞り、第三次で候補者を公示した後に最終的に597人を選任したという(人民法院報 2015年10月18日)。
  選任された陪審員は、ほとんどが中青年で、うち28〜40歳が269人(45%)、41〜50歳が148人(25%)であった。博士・修士の学位のある者が53人(9%)、学士が317名(53%)であった。この数字には、改革前は、資格要件として大卒以上としていたのを高卒以上(ただし、農村を除く。)としたことが反映されている。職業別では、公務員、企業・事業単位の従業員、私営企業主および農民などであった。
  改革に際しての問題意識として、(1)人民陪審員の広範性および代表性の不足、(2)陪審事件の不明確性、(3)選任手続きの不明確さ、(4)職権および職責の不明確さなどが指摘されていたところ、上記の(1)にはある程度まで対応できたであろうか。選任手続は、選任された陪審員が共産党員か否かなどといった属性をもっと詳細にし、第一次からどのような基準で候補者が絞り込んだのかを明らかにしなければならない。最終候補者を公示した後に、最後にはどのような基準、手続きで使命が行われたのであろうか。人民陪審員選任委員会の構成自体も公正か否かが問われる。資格審査は、人民陪審員選任委員会のメンバーと司法、公安などの関係部門、地域の役員・幹部によってなされるようだが、党および政府の意向にかなった人員が陪審員に選任されることになるであろうことは疑いない。中青年を多くしたのは、法院において自らの意見を発言できる陪審員を選任しようとする趣旨であろうか。
  陪審員に選出された者に対しては、地方の人民代表大会が人民陪審員任命書交付式を行い、全員で宣誓した上で、任務に就く前の訓練が行われ始めている。
  江蘇省で新たに選任された陪審員は7,438人、全省の陪審員数は1万3,356人となり、陪審員と基層法院の裁判官の比率は1.7:1になった。


※サイトの記事の無断転用等を禁じます。


© Copyright 2002-2013 OBC-China Reserved.  
"chinavi.jp" "ちゃいなび" "チャイナビ" "中国ナビ"はOBC-Chinaの商標です。
s