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(2015年11月11日)
最高人民法院は、2015年10月13日に「人民法院業務における社会主義の核心的価値観の育成と実行に関する若干の意見」(以下、「意見」という。)を発布した。 中国共産党18期3中全会(2013年11月)において、「中国の特色ある社会主義文化発展の道を堅持し、社会主義の核心的価値観の育成と実行し、マルクス主義のイデオロギーの指導的位置付けを強固にし、全党全国各民族の団結し奮闘する共同思想の基礎を強固にする」ということが強調された。これを受けて中国共産党中央は、2013年末に「社会主義の核心的価値観の育成と実行に関する意見」を発布した。最高人民法院の意見は、18期3中全会の決定に基づき最高人民法院が法院における活動について規律しようと規定したものである。 人民法院は、これを司法分野でどのように実践しようとするのか。意見は全11条からなるが、大きく3つの内容に分類できる。何れも核心的価値観の概念を散りばめた内容である。 第一に、(1)富強、民主、文明、和諧の価値目標を実現することである。第1条は民のための司法を堅持するとし、第2条は憲法・法律に忠実であると規定している。第二に、(2)自由、平等、公正、法治の価値を獲得するために努めることである。第3条は、人権の保障を尊重すると規定している。第三に、(3)愛国、敬意、誠意、友誼の価値を実行することに努めることである。第7条は公共利益を維持するとし、第8条は清廉な政府の建設を推進するとし、第9条は誠実に信義を守ることを奨励するとし、第10条は当事者の自由意思を尊重するとし、第11条は公序良俗を維持するとしている。 何も当然のことのようであるが、実際の訴訟における法律の適用について、とりわけ外国企業と中国企業との取引でビジネス紛争が生じ、この解決を求めようとする場合に、本当に公正、公平な判断が人民法院によって示されるか心配がある。 渉外商事紛争に関しては、仲裁による紛争解決が採用されるのが国際契約においては普通といっていい。このとき、外国仲裁機関が外国企業の仲裁申立てを受けて中国企業に給付義務を課す判断を示すことも少なくない。ところが、この仲裁判断を中国企業が任意に履行せず、外国企業が外国仲裁判断の承認・執行を中国の人民法院に申立てても人民法院が外国仲裁判断の承認・執行を認容しないということが近年増えてきているように思われる。その拒否理由として、外国仲裁判断が中国の「公共利益」や「公序良俗」に反するというものが幾つか見られるようになってきている。曖昧な概念であり、中国企業に有利な裁定をしようと思えばいくらでも利用できることになりかねない。 中国の大国意識が、公正や公平を無視するかたちで頭をもたげることがなければいいのだが。
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