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Last Update:2016/10/12
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第317回 官民紛争はうまく調停できるか

Mediation for Public and Private Dispute

(2016年10月12日)

  経済の市場化が進み、国有資産の運営を民間企業に委ねる改革が行われている。こうした過程で、政府機関が事業委託先の民間企業を訴えるということが多くなっている。最高人民法院研究室の発布した「2015年全国法院審判執行状況」によると行政事件が大幅に増え、全国の裁判所が新たに受理した一審、二審及び再審の事案数は29万9,765件、対前年比55.13%も増えている。このうち都市建設に絡む計画、移転、不動産登記をめぐる事案が3万5,726件、全体に占める割合は少ないものの係争事案の伸びは対前年比59.45%増え、他の事案に比べて伸び率はとりわけ高くなっている。
  この官民紛争の解決方法として、裁判に訴えるのではなく、調停方式による和解が有効であるということが言われるようになっている。
  最近、湖北法院の官民紛争処理事案が報道され、調停の有効性が伝えられた(中国法院網湖北法院 2016年9月22日)。事件の概要は、以下のとおりである
  2014年に湖北省咸豊県国有資産管理弁公室は、民間人6人と「咸豊県国有資産賃貸借契約」を締結した。この契約内容は、沿河路に面した家屋9棟を3年間賃貸するというものであった。
  2016年4月に政府が町の美観建設を推進する中で賃貸していた建物も美観建設の対象地区となり、撤去し、駐車場とすることが決まった。賃借人は、契約期間内のことであり、新しい政策が発布されることも知らず、家屋に多くのコストをかけて改築しており、このために損害を被ったとして、立ち退きを拒否した。ところが、賃貸人である政府側は、契約書に都市建設及び管理など公共の利益の必要がある場合には、賃借人は通知を受領したのち無条件で立ち退かなければならず、このことに関して政府は一切の補償をしないと明記されていると主張した。そして、政府側は、裁判所に提訴し、賃貸借契約の解除と立退きを請求し、2016年5月16日から立退きの日まで1日に月500元の損害賠償金を支払うように請求した。
  裁判所は、事案を受理した後、公共の利益と賃借人の損失を比較衡量し、当事者が協議し、信義誠実の原則に基づき、当事者の適法な利益が保護されることを思料した。そこで、当事者双方を同席させ、責任者間のコミュニケーションを図り、本件について調停により解決することについての共通の認識を持たせるようにした。
  この結果、9月19日に賃貸人である国有資産管理弁公室と民間人との間で調停が整った。最終的な調停案は、(1)政府側は各家屋の実情に応じて賃借人に適切な修繕費、移転費を補償し、かつ、移転についての便宜を図り、(2)賃借人は協議により合意した日までに立ち退くというものであった。
  調停を整える上では、法的解釈に頼るだけでない裁判官の力量が問われる。当事者双方の意思疎通をよくし、双方の理解及び譲歩を促すことができるか否かが問題となる。上記の事案では官に都合の良い内容が契約に随分と規定されていた。民間としては、かかる契約内容を認容せざるを得ないこともあるであろう。そうであるから官には妥協の余地があり、官民紛争が調停で解決できたものとも思う。それでも今後は行政関係の官民紛争が調停方式により解決されることが増えてくるものと考える。

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