★バックナンバー一覧
(2017年12月28日)
深圳市は、今、中国のシリコンバレーと呼ばれ、多くの有力企業、ベンチャー企業が集積し、外国人エンジニアや外国留学経験のある中国人エンジニアなど優秀な頭脳が集まり、中国のイノベーションのセンターとなっている。 しかし、深圳から外国のベンチャー企業が消え、イノベーターが消える日が遠くない将来にくるのではないかと懸念する。 なぜか。中国共産党が、企業内に党委員会を設置せよとの通知を発布し、党の指導を強化しようとしているからである。企業が自由な経営戦略を立案し、企業活動をする上での制約が強くなる。 現時点で98社ある中央企業のすべてが定款に党委員会の設置と経営への関与を認める規定を導入している。また、日本経済新聞は、党による経営介入を容認する定款変更を行った上場企業が、中国共産党大会が開幕直前の10月17日までに、上場企業の8社に1社に当たる430社超にまで拡大したことが分かったと伝えた。さらに、深圳市でも社内に党組織を持てないほど小さい企業にも党の思想を浸透させるための「連合党組織」という党組織が設立され、この党組織は約300社で構成されているという(日本経済新聞 2017年10月22日)。 1990年代の初めに中国は、国営企業を国有企業というように改めた。国は、企業経営には関与せず、企業経営は経営の専門家に委ねようという趣旨からである。しかし、今、国有企業(State-Owned-Enterprise)が再び国営企業(State-Run- Enterprise)に変わろうとしている。 そうであると、中国でイノベーションは難しくなるのではないか。外国企業も逃げていくことになるだろう。これに拍車をかけるのが、2017年1月に導入されたVPN(仮想私設網)の規制強化である。企業が海外部門との連絡に使用するVPNは、9月以降はほとんど遮断されている状態であり、実際のビジネスに大きな支障が出ているという。 習近平国家主席は、2017年12月に開催された「第4回世界インターネット大会」の開幕式において「中国が対外開放の門戸をと閉ざすことはなく、さらに広げていく」と発言した。 しかし、現実は、門戸は閉ざされつつあるように感じられる。2017年6月に施行されたインターネット安全法は、企業が、中国で集められた顧客データを海外に持ち出す際には、中国政府の審査を受けた上でなければならないと規定している。すべての企業行為が監視される社会になりつつあるとも言えるだろう。 このとき中国は、GDP成長率6%台の中程度の経済成長を維持することはできるだろうが、イノベーションを伴わない規模だけの成長に陥る可能性がある。
※サイトの記事の無断転用等を禁じます。