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LastupDate:2003/11/26
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コラム、『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第四回 栄誉権

(2003年11月26日執筆)


1.中国人の権利意識(4)―栄誉権


  今回紹介するのは、栄誉権が争われた事件である。
   栄誉権については、民法通則第102条により、「公民および法人は、栄誉権を有し、公民および法人の栄誉称号を不法に剥奪することを禁止する。」と規定されている。
   以下の事例は、読者に対して、中国において(1)栄誉を得るとはどういうことか、(2)なぜ栄誉を得たいのか、(3)栄誉を得ることによりどのような利点があるのか、というような争点があることを気付かせるだろう。また、この事例から中国における外資系企業内の労務管理を行なう際のヒントが得られるかも知れない。

事例4 鞠瑛らが法律知識コンクールに団体で参加し受賞した栄誉を郭晋栄は独占したとして訴えた

(「鞠瑛等訴郭晋栄以集体名義獲得的栄誉応帰全体成員享有栄誉権糾紛案」最高人民法院中国応用法学研究所編『人民法院案例選(1992年−1996年合訂本)(上)』人民法院出版社、1997年、547−552頁)

1 事件の概要


   鞠瑛ら4人(原告)と郭晋栄(被告)は、無錫市ボイラー工場の技術課職員である。1986年に彼らは、社内で法律学習チームを結成した。1987年6月、中華全国総工会および『工人日報』社が共催する全国職工法律知識コンクールに参加した。コンクールは、個人戦と団体戦があり、それぞれ予選と決勝の2回の競技があった。彼らは個人戦および団体戦の何れにも登録した。 個人戦は、全員決勝に進めなかった。しかし、団体戦は決勝に進み、最終的に全国一級優秀賞を獲得した。ただ、この団体戦の答案は何れも郭晋栄が一人で答案に解答を書いたものであった。
  同年9月、郭晋栄は、チームを代表して論文を執筆し、北京の授賞式に出席し、799元相当の学習机を賞品として受賞した。1987年の全国職工法律知識コンクールの栄誉証は、全国総工会により授与されるが、このとき受賞者欄には郭晋栄一人の名前しか書かれていなかった。
  そこで、鞠瑛ら4人は、郭晋栄が栄誉および賞品を独占したとして、無錫市郊区人民法院に栄誉権の享有を賞品の分配を求める訴えを提起した。郭晋栄は、この訴えに対し、鞠瑛ら4人の訴えにより自らの栄誉が損なわれ、精神的苦痛を受けたとして、侵害停止および損害賠償の反訴を起こした。
  法院は、以下のとおり認定した。
  全国職工法律知識コンクールに参加し、受賞したのはチームの名義で参加した団体戦である。ゆえに、(1)栄誉証は団体で享有せよ。(2)賞品は分割不可能であるから、郭晋栄は他のチーム・メンバーに各80元を支払え。(3)郭晋栄の反訴を棄却する。

2 検討課題


  ここで検討課題として取り上げるのは、法的争点ではなく、中国人の法意識または社会意識がどうであるのかということである(前回まで、およびこれからも同様である。このため事案の概要も法的争点を検討するときには正確に全文翻訳すべき点も省略してある。)。
  さて、鞠瑛ら4人は、なぜ郭晋栄を訴えたのだろうか。幾つかの争点が考えられる。第一に、(1)自分たちも栄誉が欲しかったのか。第二に、(2)郭晋栄の栄誉独り占めという行為に憤ったのだろうか。第三に、(3)郭晋栄の栄誉独り占めという行為に憤ったとしたら、それは団体戦の答案は郭晋栄が一人で書いたにせよ、チームで学習した成果として高得点が得られたのではないかと考えたからか。一方の郭晋栄の意識はどうなのであろうか。第一に、(1)解答をしたのは郭晋栄自身だけであるから、栄誉証も個人で受けて当然と考えたのだろうか、第二に、(2)チームにメンバーに対しては、どのような意識を持っていたのか。同じ釜の飯を食ったメンバーか、単にコンクールに参加するためだけのチームか。
  この事例には、「チームワーク」というキーワードがあるかも知れない。中国において自己とチームの意識とはどのようなものなのだろうか。中国でチームワークは形成されないのだろうか。読者の方のご経験、例えば合弁企業における労務管理のご経験で類似のケースはないだろうか。

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