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(2005年6月8日執筆)
筆者が、1989年6月4日に北京で天安門事件を目の当たりにしてから16年がたった。天安門事件のきっかけの一つには、中国共産党幹部の腐敗に対する民衆の不満があった。市場経済化がさらに進展する中、今も中国において会社の不祥事、または経営者らによる不正行為が増えている。 2004年11月に重慶市万州区で数万人規模の暴動が発生した。これは三峡ダム建設で移転を強制され、生活が苦しくなった農民が中心となり発生したものである。きっかけは、万州区の国土局副局長が三峡ダムの防災工事に絡んで11万元の賄賂を受け取ったことである。同副局長には、懲役6年6月の判決が下された(2004年1月から6月までの半年間に同様の農民騒乱は全国で87件もあったという。)。 2005年1月には、同じく重慶市で工場労働者約100人が市内と空港を結ぶ幹線道路で座り込みをした。会社の賃金府払いが原因だが、役人や企業幹部が高価な家を購入するのに農村出身者はバラックに住むという所得格差に対する不満が積もっている。 これらは、党や行政の腐敗ということもあるが、市場経済化する中で会社を取り巻くである問題とも言える。 そこで、企業統治方法として独立取締役の設置が議論されている。 現行の中国公司法には独立取締役に関する制度は存在しないが、中国証券監督会は、「関与在上市会社建立独立取締役制度的指導意見」(上場会社において独立取締役制度を確立することについての指導意見)を発布した(2001年8月16日制定、発布)。ここでは、会社の取締役会の構成について外部取締役の割合を2分の1以上にし、かつ2名以上の独立取締役を任命しなければならないとの要求がなされている。 独立取締役制度導入の政策的背景は、(1)最大株主による恣意的な経営がなされないように所有と経営を分離し、および(2)会社内部の業務執行管理だけでは不祥事が後を絶たないことから、会社から独立した立場で経営の監督ができるようにしようということである。 実務上は、学者、会計士、経営者などが独立取締役として就任している。現在は経済学者が多いが、将来的には経営者中心にすべきとの認識があるという。2001年には取締役会3分の1を独立取締役とすることを上場企業の義務としたため、2003年6月の統計では上場企業の65%が独立取締役を設置しているという。もっとも、この独立取締役について、少数株主や監査役会の指名した者が選出された例は報道されておらず、現状では独立取締役の多くは、支配株主の代表者である代表取締役会長の氏名によって選任されているとみられる。 独立取締役制度が、公司法においても制度化されるようになるのか否か。共産党幹部や行政官僚の腐敗が蔓延するといっていい中、企業統治のあり方が問われている。この問題は外資系企業の会社の機関設計のあり方にも大きく影響するものである。
次号の更新は6月22日(水)ころを予定しています。
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