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(2005年10月12日執筆)
中国人の労働意欲および労働スタイルが変化しつつある。働いても働かなくても同じ給与という社会主義計画経済時代の悪平等から脱したところ、労働意欲は高まっている。また、この労働意欲も高い給与を求めてという時代から、今では充実感を求めてという方向に変わりつつある。 とりわけ、ホワイトカラー(白領帯)のとりわけエリート層といえるマネージャークラスの社員は、収入は当然いいところ労働の充実感を求める志向が強くなっている。このため欧米企業から国有企業へ回帰し、または起業の道へ進む者が多くなってきている。 Aaron Tong(中国籍の中国人であるが、中国語表記が不明なので英語表記を使用する。)は、2年前にモトローラを退職し、通信設備会社TCLの副総経理に就任した。モトローラ時代には、携帯電話部門のシニア・マネージャーとして高級を取っていたが、TCLからリクルートされたときに「よりチャレンジできる仕事」とTCLへの転職を決意した。 ヘッド・ハンティング会社であるHeidrik & Struggles社は、2000年のときにはローカル(内資)企業が経営幹部のリクルートを申し込んでくる割合は20から30%であったが、現在は60から70%がローカル企業であるという(Business Week Sep.26,2005. at22)。 そして、中国人もこれに応えている。中国国有企業が、有能な人材に対して相応の対価を支払うようになったのも大きい。 この先駆者といえるのが呉士宏か。彼女は、IBM中国の販売部門総経理、マイクロソフト中国の総経理を経て、1999年10月にTCL集団の常務董事、副総裁、TCL信息(情報)産業集団の総裁に就任した(呉士宏『逆風飛颺(Up Against The Wind)』光明日報出版社、1999年)。 ホワイトカラーの一般従業員も長い労働時間をいとわない傾向がある。ホワイトカラーの一般従業員の月収は、2,000元程度であろうか。ブルーカラーの2倍の収入にはなるが、労働時間は1週間に60時間と20時間は残業している(Business Week Sep.26,2005. at62)。上昇志向があるからだろう。 中国の労働市場では、「人材奪い合い」が激化しているようだ(日本経済新聞 2005年10月3日)。高い給与を求めて転職するということが基調ではあるが、外資企業としては優秀な人材を引き止めるには別のインセンティブ、意欲・目標を与えられる職場環境を整える必要があるのではないだろうか。 ただ、忘れてならないのは、ホワイトカラーに対して、ブルーカラーの労働環境である。ILOの調査によると中国人の平均労働時間は44.6時間(米国39時間)で、52%の労働者が1週間に40時間以上働いている。中国青年報の社会調査中心の2005年4月の調査によると、65.6%の労働者が1日に8時間以上労働し、20%は10時間以上であった(Business Week, Sep.26,2005. at62)。さらに問題は、51%の者が残業代を支払われていないということ。工場労働者の多くが農民工であるという問題もある。外資企業には、ホワイトカラー層、ブルーカラー層の別の労務管理戦略が求められている。
次号の更新は10月26日(水)ころを予定しています。
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