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LastupDate:2005/9/14
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コラム『チャイナウォール』−中国人の法意識−

 第49回 和諧社会の建設

(2005年9月14日執筆)

   最近の中国のキーワードの一つに「和諧社会」がある。「和諧社会」の概念は、(1)人と自然、(2)人と人、(3)人と社会などの利害関係の均衡を図ることであるといえよう。
   2005年8月30日に中共北京市委員会と北京市人民政府は、「和諧社区・和諧村鎮の建設に関する若干の意見」を発布した。社会生活共同体の中で、(1)健全な民主法治、(2)均衡のとれた社会保障、(3)公共サービス、(4)社会の安全と安定、(5)良好な生活環境、(6)友愛的な相隣関係を確立・確保しようとすることが「和諧社会」の目的である。
   しかし、現実には市場経済化が進展する社会の中で、利益主体の多様化に伴い、さまざまな利害関係の対立や格差が生じている。最大の問題といえば、第一に労資関係の不均衡(一般には労使関係と呼ばれるものであろうが、ここでは労働者と資本家の関係の対立という概念から“労資”という。また政府と民衆の関係もこの概念に含まれるようである。)、第二に上記から生じる所得格差である。
   筆者は、8月28日から9月3日までの間、北京に滞在したが、街のあちらこちらで「和諧社会」のスローガンを見かけた。同時に長安街通りでは自転車のハンドルにダンボールをA3サイズに切り、ここに「和諧社会」の表題を書き、自分の生活苦を訴えている老人を見かけた。
   市場経済の進展により、人間関係が殺伐としてきているということは否めない。
   宣武門椿樹地区の胡同には、社会治安総合治理弁公室および公安宣武分局椿樹派出所による「致居民一封信」(住民に宛てる手紙)が路地の各住居の塀に貼ってあった。この内容は、押し入り強盗(圧入室盗窃)事件が多くなっていることに対して、注意を呼びかけたものである。宣武門椿樹地区は、瑠璃廠があり、前門にも隣接するところだが、現代的なオフィスビルや百貨店の建設などの再開発が進み、胡同は取り壊されつつあり、空き家も急激に増えている。この空き家に外地からの流入者が入り込んだりする事件もある。治安が悪化してきているのである。
   弱者に対する社会福利・社会保障を厚くする必要があるが、このための資金確保が国家財政にとっては大きな問題となる。全国人民代表大会で「個人所得税法」の改正審議が進められている。
   現行の個人所得税法では、月収800元以上の個人に所得税が課される。個人所得税法制定当時(1980年)の党および国家公務員の平均賃金は400元、99.9%の公民が800元以下であった。しかし、2000年には従業員の平均賃金は800元を上回るようになった。現在、審議中の個人所得税法では課税対象とする月収を1,500元以上とする計画であるようだが、それでも反対が多いという。そこで9月27日に公聴会が開催されることになった。
   都市と農村に限らず各階層で所得格差が拡大する中、国家税収を確保し、所得の再分配を検討する必要があり、もって社会福利・社会保障を充実させなければ、和諧社会建設もままならない。



長安大街で見られた「和諧」のキーワードが入ったスローガン


宣武門椿樹地区の胡同



次号の更新は9月28日(水)ころを予定しています。

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